唯々諾々いいだくだく)” の例文
そこでぼくは彼女達かのじょたち婉然えんぜんと頼まれると、唯々諾々いいだくだくとしてひき受け、その夜は首をひねって、彼女の桃色ももいろのノオトに書きも書いたり
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
彼らはその理想さえ主張出来得れば、曾て犯した唯心論的文学の古き様式をさえも、唯々諾々いいだくだくとして受け入れているではないか。
彼らは第一の左甚五郎の如く、ただ唯々諾々いいだくだくとして己れを造った人間にもてあそばれ、その人の娯楽のために動くような人間を造るのであろうか。
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
二百余名の甲府勤番がそれで納まるか知らん、駒井を頭にいただいて唯々諾々いいだくだくとその後塵こうじんを拝して納まっているか知らん。
王仁とそのままでは済まないはずだが、木兵衛という奴、理知聡明、学者然、おつにすまして、くだらぬ女にれてひきずり廻されて、唯々諾々いいだくだくというのだが
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
これは源吉の自惚うぬぼれでもなんでもなかった。京子は、明かに彼に好意を持っていたのだ。それは源吉の持出した「堅い約束」に、唯々諾々いいだくだくと応じたのだから——。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「副統も副統だ、なんで唯々諾々いいだくだくとお引っ返しなすったのか。李応とかいう奴、二タまたものにちげえねえ。まずその李家荘からさきに蹴ちらそうじゃございませんか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
綾子はこれを見て見ぬふり、黙許してとがめざれば、召使のものはせんすべなく、お丹の命令に唯々諾々いいだくだく
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし頼該自身がまことに唯々諾々いいだくだくとして高松へ移ったので、家臣たちの反対は騒動に及ばずしてんだ。これはかれの性根の一部をよく表わしている事の一つである。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして親切なブラドンの行動は、すべて巧妙に計画されたもので、なにも知らないアリスが、ブラドンの心づくしをよろこんで唯々諾々いいだくだくと医師へ同伴されたりしているうちに
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
その大兵たいひょう露助ろすけは、小さい日本兵の尖った喧嘩腰けんかごしの命令に、唯々諾々いいだくだくと、むしろニコニコしながら、背後から追いたてられて、便所などに、悠々ゆうゆうと大股にったりしていた。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
態〻わざわざ送って来た人が唯々諾々いいだくだくとして送られて行く。高輪から品川までは大分話しでがある。しかし二人は未だ飽き足らない。駅前に辿りついた時、俊一君は腕時計に見入って
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
唯々諾々いいだくだくとしていられるのは、一方では親という絶対の専制君主せんせいくんしゅの下に生まれ落ちるから圧迫されて、極端に奴隷どれい的の心持ちをやしなわれ、一方ではのんきなむかしの時代の人は
親子の愛の完成 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
私があまりに唯々諾々いいだくだくと従ったら、周さんは敏感に察したらしく、声を挙げて笑い
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
わしは非常な変り者で、理解し難い命令を下す様なこともあろうが、それを少しも反問せず、唯々諾々いいだくだくとして遵奉じゅんぽうするという約束で、その代り給金は世間並の倍額を与えることにした。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
自分が、心を掛けるとどの女も、唯々諾々いいだくだくとして自分の心のままに従った。が、それは自分を愛しているのではない、ただ臣下として、君主の前に義務を尽くしているのに過ぎなかった。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
何事も唯々諾々いいだくだくとしてその命に従い、あるいは又、内部に反感等をいだきながら表面には唯これに従うごときは、わが望むところにはこれなく候。生命ある真の服従こそわが常の願いに候。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
僕の意志の薄弱なのにも困るかも知れないが、君の意志の強固なのにも辟易へきえきするよ。うちを出てから、僕の云う事は一つも通らないんだからな。全く唯々諾々いいだくだくとして命令に服しているんだ。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
発行するや最初は何事も唯々諾々いいだくだく主筆のいふ処に従ふといへども号を追ふに従つてあたかも女房の小うるさく物をねだるが如く機を見折を窺ひまずたゆまず内容を俗にして利を得ん事のみ図る。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
弟はその子に対しては、いつも唯々諾々いいだくだくとしているようであった。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
老父は至極簡単で、もの事を逆にいえば唯々諾々いいだくだくなのである。
即座に唯々諾々いいだくだくと署名し拇印を押しました。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
この事実にちょうすれば温和を主とするとはいえ、必ずしも不正なる要求に対しても唯々諾々いいだくだく、これに盲従もうじゅうせよとの意ではなかったことがわかる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
剣把けんぱをたたくと、人々は、もうふるえあがって、唯々諾々いいだくだくと、彼の命のままうごくしかなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雄吉が、青木の依頼を唯々諾々いいだくだくとしてきいたのはむろんである。雄吉は、自分が青木の代人としてそうした大金を引き出すのを、一個の名誉であるがごとく、欣んで○○銀行支店へ駆けつけた。
青木の出京 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
とお二方は唯々諾々いいだくだくというていを示した。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
必ずしも、世間通りに従う理由はない。もしなにもかも唯々諾々いいだくだくと、世の風潮ふうちょうによるならば、進歩することはなくなる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
仲達の言葉に、郭淮は唯々諾々いいだくだくふたたび城を出た。つづいて彼は麾下きかの張郃を招いて云った。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
汝、日頃より君寵をかさに着て、しかも今日まで、碌々ろくろくと無策にありながら、われら三代の宿将にも議をはからず、必勝のあてもなき命をにわかに発したとて、何で唯々諾々いいだくだくと服従できようか。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、胸にひとり忍辱にんじょくのなみだをのんで、何事にも、唯々諾々いいだくだくと伏していた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
唯々諾々いいだくだくである。糜竺びじくは命ぜられるまま、倉皇として帰って行った。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)