古渡こわた)” の例文
「はてな。あれやあほんとの古渡こわたりで、新渡の贋物いかものを売ったわけでもないが。……その梅掌軒ていうなあ汁粉屋しるこやか何かですか」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白牡丹はくぼたんで買ったばかりの古渡こわたりの珊瑚さんごの根掛けや、堆朱ついしゅ中挿なかざしを、いつかけるような体になられることやらと、そんなことまで心細そうに言い出した。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そこいらにザラにある珈琲茶碗じゃない。舶来最極上の骨灰焼だ。底を覗いてみると孔雀型の刻印があるからには勿体なくもイギリスの古渡こわたりじゃないか。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、骨董好きが古渡こわたりの茶盌ちやわんでも見るやうな、うつとりした眼つきで自分の手首に穿はまつた手錠に見惚みとれてゐる。
「全く退屈ぢやありませんか、ね親分。こんな古渡こわたりの退屈を喰つちや、御用聞は腕がにぶるばかりだ。なんか斯う胸へドキンと來るやうな事はないものでせうか」
かたの如く結城ゆふき単衣物ひとへものに、八反の平ぐけを締めたのが、上に羽織つた古渡こわた唐桟たうざんの半天と一しよに、その苦みばしつた男ぶりを、一層いなせに見せてゐる趣があつた。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それで幇間にその煙草入をくれてしまった、それが薄色珊瑚の緒〆に古渡こわたりの金唐革というわけだ。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これは古渡こわたりの無疵むきず斑紋けらのない上玉じょうだまで、これを差上げ様と存じます……お根付、へい左様で、鏡葢かゞみぶたで、へい矢張り青磁せいじか何か時代のがございます、琥珀こはくの様なもの、へえかしこまりました
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
外套がいとうの裏は繻子しゅすでなくては見っともなくて着られないと云ったり、りもしないのに古渡こわたりの更紗玉さらさだまとか号して、石だか珊瑚さんごだか分らないものを愛玩あいがんしたりする話はいまだに覚えていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
源右衛門に注意されて、忠三郎はその一軸を一応あらためた上で、唐桟とうざんの大風呂敷につつんだ。軸は古渡こわたりの唐更紗とうさらさにつつんで桐の箱に納めてあるのを、更にその上から風呂敷に包んだのである。
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
石川左近将監自慢の、呂宋ルソン古渡こわたりのお茶壺です。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
よくこそ心掛給ひしといた賞美しやうびなし外々にて才覺致候はんと申ければ隱居は暫く考へ脊負葛籠せおひつゞら一ツ取出し中より猩々緋しやう/″\ひとらかは古渡こわたりのにしき金襴きんらんたん掛茶入かけちやいれ又は秋廣あきひろの短刀五本骨ほんぼねあふぎの三處拵ところごしらへの香箱かうばこ名香めいかう品々しな/″\其外金銀の小道具を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ご冗戯じょうだんでしょう。新渡しんとじゃあござんせんぜ。これくらいな古渡こわたりは、長崎あっちだって滅多めったにもうある品じゃないんで」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「全く退屈じゃありませんか、ね親分。こんな古渡こわたりの退屈を喰っちゃ、御用聞は腕が鈍るばかりだ。なんかこう胸へドキンと来るような事はないものでしょうか」
古渡こわたりの茶入ちやいれ楽茶盌らくぢやわん、茶杓、——といつたやうな道具が、まるで魔法使の家の小さな動物たちが、主人の老女の持つ銀色の指揮杖の動くがままに跳ねたり躍つたりするやうに
侘助椿 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
練物ねりもので作ったのへ指先のもんを押しつけたりして、時々うまくごまかした贋物がんぶつがあるが、それは手障てざわりがどこかざらざらするから、本当の古渡こわたりとはすぐ区別できるなどと叮嚀ていねいに女に教えていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「でも、花嫁が駕籠の中で殺されるなんざ江戸開府以來でも古渡こわたりの方ぢやありませんか。ね、親分」
……古渡こわたりの珊瑚さんごの珠、帯止めや何かの金銀もの、それに着ているお召物など、身のまわりの物そッくりお預かりいたしまして、その代りに、手前どもの流れ物で
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
塵居ちりゐ御影みかげ古渡こわたりの御經みきやう文字もじめてしれて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
「でも、花嫁が駕籠の中で殺されるなんざ江戸開府以来でも古渡こわたりの方じゃありませんか。ね、親分」
唐桟とうざんの新渡も古渡こわたりもわからないでは、一反の縞に、二十金も出すような物好きにはなれない。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
塵居ちりゐ御影みかげ古渡こわたりの御經みきやうの文字やめでしれて
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「成程、そいつは古渡こわたりの大變らしいな。誰だい、その名乘つて出た下手人といふのは?」
「自分では、たしかな、古渡こわたりだとぞんじますから」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「サア、親分、御輿を上げて下さいよ。今度こそ本當の大變、——古渡こわたりの大變ツ」
「何んだぢやありませんよ。大變も大變、古渡こわたりの大變、江戸中の大騷ぎですよ」
「チエツ、古渡こわたりの岡つ引が聞いて呆れらア、俺は唯の岡つ引で澤山だよ」