口真似くちまね)” の例文
旧字:口眞似
彼はそれらの余震になおもおびやかされながら、しかし次第に、露台のまわりでうるさいくらいさえずりだした小鳥たちの口真似くちまねをしてみたり
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「誰だ、そんな悪魔の口真似くちまねをする奴は」振向いてみると、この山の学僧のあいだで提婆達多だいばだった綽名あだなをして呼んでいる乱暴者であった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほかの湯治客ほどに雨の日のつれづれにくるしまないのであるが、それでも人の口真似くちまねをして「どうも困ります」などといっていた。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
境界の金網の垣根かきねの向う側では子供たちが電車遊びをしているのであろう、姿は見えないが、ペータアが車掌の口真似くちまねをして
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
つまり恋愛小説を読むとか、似非えせ風流にふけるとか、女学生の口真似くちまねをすれば我が理想を高潔神聖にするとかいう位なものです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
弟の口真似くちまねに過ぎなかったような気もします。おいでをお待ちしているだけなのです。もう一度おめにかかりたいのです。それだけなのです。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
茂太郎は、老女の昔話のうちの奥州訛おうしゅうなまりを面白く心得て、口真似くちまねに節をつけて唄い出しました。それに老女はあまり取合わず
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「おやおや」と、ジナイーダは口真似くちまねをして、「生きることが、そんなに面白おもしろいかしら? ぐるりを見回して御覧ごらんなさい。 ...
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
多分はそれだろう、口真似くちまねをするのは、と当りをつけた御用聞きの酒屋の小僧は、どこにも隠れているのではなかった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
亜細亜アジア人種……阿弗利加アフリカ人種……。」と生徒達の読本朗読の声を聞き覚えに私は覚束おぼつかなくも口真似くちまねをしたりしてゐた幼ない頃の自分を思ひ出す。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
妻は僕の口真似くちまねをしながら、小声にくすくす笑っていた。が、しばらくたったと思うと、赤子の頭に鼻を押しつけ、いつかもう静かに寝入っていた。
死後 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と誰かの口真似くちまねのように言って、お三輪の側へ来るのは年上の方の孫だ。五つばかりになる男の児だ。
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私は五十年も東京にいながら、まだ中国の土音どおんが抜けきらぬほど耳が悪く、また口真似くちまねが拙であるが、中西氏はその正反対で、従ってまた鳥の名を教える名人でもあった。
「あなたまでが! 他人ひと口真似くちまねをなさるの?」
口真似くちまねをするな」
わしの口真似くちまねをしてはいかんよ。——おまえが、あのひとに、そんな口をきく理由はない。おまえとあれとは、どこまでも、母と子であることだ。……な。
「あら、しっぺ返しをおっしゃるわ、仏頂寺なんかに恨まれる筋は、わたし毛頭ないわ、仏頂寺を恨む筋はあるか知れないが……誰かの口真似くちまねよ、お気の毒さま」
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
愛だの真実だの乱雲だのと、賢者の口真似くちまねをなさっている間にも、オフィリヤのおなかが、刻一刻と大きくなります。それだけは、たしかに、目に見える事実です。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
病気も追々にくなった甥などはその口真似くちまねをして、しきりに「だいなし」を流行はやらせていた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と云うところがどうしてもみ込めず、唄の文句の「譃か」を琴で弾いてしまうので、二三日そこばかりを練習させられているうちに、悦子がすっかり覚えてしまって口真似くちまねをした。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こんなことは、馬琴大人の口真似くちまねをすれば、そのためしさわに多かりでげす。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もっともなかなかの悪戯いたずらもので、逗子ずしの三太郎……その目白鳥めじろ——がお茶の子だから雀の口真似くちまねをした所為せいでもあるまいが、日向ひなたえんに出して人のいない時は、籠のまわりが雀どもの足跡だらけ。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
越後獅子の口真似くちまねをして言うならば、「竹さんの母親は、おそろしく旧式のひとに違いない。」
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
このごろ、江戸で流行はやる、薩摩さつまッぽうの口真似くちまねをして、仰向けに、ころがった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と不破の関守氏は、隣室から米友の口真似くちまねをして
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、貞之助が「お婆ちゃん」の口真似くちまねをした。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そうして後で、私を馬鹿先生ではないかと疑い、灯が見えるかねと言い居ったぞ等と、私の口真似くちまねして笑い合っているのに違いないと思ったら、私は矢庭やにわに袴を脱ぎ捨て海に投じたくなった。
佐渡 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私だって、なんにも、ものを知りませんけれども、自分の言葉だけは、持っているつもりなのに、あなたは、全然、無口か、でもないと、人の言った事ばかりを口真似くちまねしているだけなんですもの。
きりぎりす (新字新仮名) / 太宰治(著)
「或いはね。」とお母さんは、僕の口真似くちまねをして言った。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)