参詣人さんけいにん)” の例文
旧字:參詣人
法隆寺に群る参詣人さんけいにんたちも、中宮寺を過ぎると全く途絶えて、ここばかりは斑鳩いかるがの址にふさわしくひっそりと静まりかえっている。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
もう宵闇よいやみの空に白い星のまたたいている頃だし、そう参詣人さんけいにんもない境内なので、気をゆるしていたので、彼はよけいにぎょッとした。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
京都の黒谷くろだに参詣人さんけいにん蓮生坊れんしょうぼう太刀たちいただくようなかたで、苦沙弥先生しばらく持っていたが「なるほど」と云ったまま老人に返却した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幸助はまた横眼で、すばやくあたりを見まわし、唇をめた。参詣人さんけいにんもなく、境内はしんと静まり、春の陽がいっぱいに照りつけていた。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
不断でもかなりな参詣人さんけいにんを呼んでいるそこの寺は、ちょうど東京の下町から老人や女の散歩がてら出かけて行くのに適当したような場所であった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
参詣人さんけいにんへも愛想よく門前の花屋が口悪るかかもとかくの蔭口かげぐちを言はぬを見れば、着ふるしの裕衣ゆかた総菜そうざいのお残りなどおのづからの御恩もかうむるなるべし
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
正覚寺にある政岡の墓地には、比翼塚ほどの参詣人さんけいにんを見ないようであるが、近年その寺内に裲襠うちかけ姿の大きい銅像が建立されて、人の注意をくようになった。
目黒の寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かえって、ただの参詣人さんけいにんのようにしておりますほうが、なんさわりもありますまいと、存じたのでございます。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
同じ持って行くのならたくさん持って行って売った方が好いなんて、いつの間にやら商売気を出してくれたのが、私達の仕合せで、多摩たまの山奥から来た参詣人さんけいにんなどは
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
昨日見にまいり候折参詣人さんけいにん柏手かしわでつ音小鳥の声木立こだちを隔てゝかすかに聞え候趣おおいに気に入り申候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
由緒ゆいしょのある大きな寺院おてらへ行くと、案内の小坊主が古い壁に掛った絵の前へ参詣人さんけいにんを連れて行って、僧侶ぼうさんの一生を説明して聞かせるように、丁度三吉が肉体から起って来る苦痛は
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
亀沢町の邸には庭があり池があって、そこに稲荷いなり和合神わごうじんとのほこらがあった。稲荷は亀沢稲荷といって、初午はつうまの日には参詣人さんけいにんが多く、縁日商人あきうどが二十あまり浮舗やたいみせを門前に出すことになっていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ものの半年と経たないうちに参詣人さんけいにんの数は減り、賽銭のたかもずんと減ったが、それでもここから立ち退かないのは、諏訪明神のお力によって、自然と頭の下がるような立派な大盗に巡り合い
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その日は風の暖かな佳い日であったから参詣人さんけいにんが多かった。許宣の一行は、その参詣人に交って臥仏寺の前に往き、それから引返して門の外へ出た。そこには売卜者ばいぼくしゃや物売る人達が店を並べていた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そしてせるほどな参詣人さんけいにんの人いきれの中でまた孤独に還った。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
夢殿ゆめどのをめぐって中宮寺の庭へさしかかると、あたりが一層森閑としてくる。法隆寺に群る参詣人さんけいにん達もここまでは足をのばさぬのであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
二十二日の地震よ、山門は倒れてめちゃめちゃだ、追っかけて二十九日の大火に回向院はあのとおりさ、げんあらたかだてえんでいまたいそうな参詣人さんけいにんだそうだ。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
御祭がの十二時を相図あいずに、世の中の寐鎮ねしずまる頃を見計って始る。参詣人さんけいにんが長い廊下を廻って本堂へ帰って来ると、何時の間にか幾千本の蝋燭そうそくが一度に点いている。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
祭りの日には、たくさんな参詣人さんけいにんが、お山へ登って参ります。その時、人に見られるのが辛くてなりません。毎年のように、稚子輪髷ちごわまげうて、もう一度、綺麗な着物を着て見とうございます。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
広い境内けいだいには参詣人さんけいにんの影も見えないので、四辺あたりは存外しずかであった。自分はそこいらを見廻して、最後に我々二人のさびしい姿をその一隅に見出した時、薄気味の悪い心持がした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)