到底とて)” の例文
世捨人になっていながら恥かしいなんかてえ事があるものか、私が連れてかねば到底とても来そうもない、さア一緒に来なさい
到底とてつかれやうでは、さかのぼるわけにはくまいとおもつたが、ふと前途ゆくてに、ヒイヽンとうまいなゝくのがこだましてきこえた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お前は到底とても此樣な纎弱デリケートなものには適しないといはれたことがあるが、何うしても其の人の人格は隱す譯にはゆかぬ。
彫刻家の見たる美人 (旧字旧仮名) / 荻原守衛(著)
おれは無学で働きがないから、おれの手では到底とても返せない。何とかしてお前の手で償却の道をたてて呉れ。之を償却せん時には、先祖の遺産を人手に渡さねばならぬ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ところが意地悪く門前の広場は坂から続いて同じような傾斜をなし、湿った柔い地面に車輪が食込んでしまうので、馬はつかれて到底とても一息には曳込む事が出来ない。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼は貴方が世に有る間は到底とても私を自分の妻にする事は出来ぬと思いましたか、自分では嫉妬の一念に目が眩んだと云いますが私の立ち去った後、貴方が壁の傍へ来て
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
由來僞物の藝は容易に眞似する事が出來るが、肚の藝はさうはいかない。以前は、泉先生の眞似をする人間が隨分澤山あつたが、到底とても眞似切れなくなつて、影をひそめてしまつた。
乃公は無論みんなに叱られた。お花さんは到底とても乃公を連れて行ってくれまい。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
やっとこなと起かけてみたが、何分両脚の痛手いたでだから、なかなか起られぬ。到底とて無益むだだとグタリとなること二三度あって、さてかろうじて半身起上ったが、や、その痛いこと、覚えずなみだぐんだくらい。
ねじけくねった木がその間に根を張り枝を拡げて、逆茂木さかもぎにも似ているが、それがなければ到底とても登れぬ場所がある。岩壁や木の根には諸所に氷柱つららが下っていた。雨の名残りのしずくが凍ったものであろう。
皇海山紀行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
如何どうも申されねどおまへさまのおさしさはにしみてわすれませぬ勿躰もつたいなけれどお主樣しゆうさまといふ遠慮ゑんりよもなく新參しんざんのほどもわすれてひたいまゝの我儘わがまゝばかり兩親ふたおやそばなればとて此上このうへ御座ございませぬりながらくやしきは生來せいらいにぶきゆゑ到底とて御相談ごさうだん相手あいてには
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
だから到底とても私を東京へれないという父の言葉に無理もないが、しかし……私は矢張やっぱり東京へ出たい。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
廃業ひかせるお客海上の顔にもかゝるんですから、立派にして遣らねばならぬ、立派にしてやるが青二才の職人風情に真似の出来るもんか、己と競争ようと思ったッて到底とても及ぶまいと
忘れて居ました、此の度の事は貴方のお蔭で助かりましたが、之よりも恐ろしい、到底とても助かる路がなかろうと思う様な事柄に攻められて居るのです、妻にもなれず、永く此の世に居る事も出来ません
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
余所よその国の言葉が国際語になつては承知せん、何でも自分の国の言葉を採用しろと主張する、到底とても相談のまとまる見込はない、そこで是はどうでも何か新しい言語ことばを作つて
エスペラントの話 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
此手紙で見ると、大した事ではないと思っていた父の病気は其後そのご甚だ宜しくない。まだ医者が見放したのでは無いけれど、自分は最う到底とても直らぬと覚悟して、しきりに私に会いたがっているそうだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)