出遭であ)” の例文
で、その白鳥はくちょうは、いまとなってみると、いままでかなしみやくるしみにさんざん出遭であったことよろこばしいことだったという気持きもちにもなるのでした。
しかし人間がだんだん発意を重んずるようになると、その長い独白がちょいちょい聴衆の質問や反駁に出遭であって中断される。
新秩序の創造:評論の評論 (新字新仮名) / 大杉栄(著)
泣きたくなるような折に出遭であうと、雪子であったら、こんな場合に辛抱強く云い聴かせて納得させてしまうのに、と思うことは再三であった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
柿丘でなくとも、どのような男だって、雪子夫人のような女に出遭であうと、すくみでもしたかのように彼女から遠のくことが出来なくなるだろう。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そういうある日、隣り町の登記所へ行った帰りに、旦那が木橋の上を歩いていると向うから馬力の六やんが荷馬車をひいてやってくるのに出遭であった。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
その白けたような街道では、東京ものらしいインバネスの男や、淡色のコートを着た白足袋の女などに時々出遭であった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「なァにの。おもいがけないところで出遭であった、こんなのいいことは、ねがってもありゃァしないからひとつどこぞで、御飯ごはんでもつきってもらおうとおもってさ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
良人おっとに連れられて外遊する船がナポリに着いた時、行き違ひに出て行かうとする船に乗り込むあわただしいかの女に、埠頭ふとうでぱつたり出遭であつて、わずかにおたがいに手を握つた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ドウか目録だけでもいから是非見たいと所望するから、早速飜訳ほんやくする中に、コンペチションと云う原語に出遭であい、色々考えた末、競争と云う訳字を造り出してこれ当箝あては
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
これは明らかな事実で、これを威張っておって正宗の剣や弓や甲冑でおれば、支那、印度インドと同じ運命に出遭であう。これが孫子そんしのいわゆるりょうは敵に依る、敵の兵器を以て敵を打つというのである。
吾人の文明運動 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
種々の不都合ふつごう、種々の反対に打ち勝つことが、われわれの大事業ではないかと思う。それゆえにヤコブのように、われわれの出遭であ艱難かんなんについてわれわれは感謝すべきではないかと思います。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
試煉しれん出遭であっているのであった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この子家鴨こあひるくるしいふゆあいだ出遭であった様々さまざま難儀なんぎをすっかりおはなししたには、それはずいぶんかなしい物語ものがたりになるでしょう。
学校のかいりなぞに出遭であうことありましても、何や気イさして、前みたいに顔しげしげと見守ること出来しませなんだ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして、ブルートの未決監房みけつかんぼうへひいていかれるうちに、あの空襲警報に出遭であったのですわ
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
学校へ通うのもつらくなっていた長女も一緒だったが、ふと園内で出遭であった学友にも、面を背向そむけるようにしているのを見ると、庸三も気がとがめてにわかに葉子から離れて独りベンチに腰かけていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ぶらりぶらりとたとこを、浅草あさくさでばったり出遭であったのが若旦那わかだんな
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
すると或る日、おひるの休みに休憩所でばったり出遭であうと、いつでもすうッと澄まして通り過ぎてしまいなさるのんに、どういう訳やにッこりしなさって、眼エで笑いなさるのんです。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
後に葉子ともすっかり遠くなってしまってから、彼は四五人のダンス仲間と一緒に入った「サロン春」で、偶然彼女に出遭であったものだったが、二三年のあいだに彼女はすっかり好い女給になっていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)