つくえ)” の例文
主人は窓の隙からそっと覗いてみると、つくえのそばには二本の大きい蝋燭を立てて、緋の着物の人が几に倚りかかって書物を読んでいた。
なるほど趙生ちょうせいが指さしたつくえの上には、紫金碧甸しこんへきでんの指環が一つ、読みさした本の上に転がっている。指環の主は勿論男ではない。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
山は喜んで老人についてゆき、いているろばつないでへやの中へ入った。室の中にはつくえも腰掛けもなかった。老人はいった。
阿繊 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
そこへ朱が木像をおぶって入ってきて、それをつくえの上に置き、杯を執って三度さした。同窓生はそれを見ているうちに怖くなって体がすくんできた。
陸判 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
華歆はあわててつくえの下からそっと曹丕の手へ何か書いたものを渡した。曹丕は眼をふと俯せてそれを見ると、たちまち声を高めて次の難題を出した。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
死のある所には、神占のつくえのごとき震えが起こるものである。魂の目がのぞき出てる彼のひとみからは、押さえつけた炎のような輝きが発していた。と突然彼は頭をもたげた。
藤葛ふじかずらじ、たにを越えて、ようやく絶頂まで辿りつくと、果たしてそこに一つの草庵があって、道人はつくえに倚り、童子は鶴にたわむれていました。
で、婿さんの家へいってみますと、もうあかりいておりました。入ってみますと奥様が燈の下に坐って、つくえによりかかっておやすみになろうとするふうでした。
五通 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
土地の者は魏法師のことばに従って、藤葛ふじかずらたにを越えて四明山へ往った。四明山の頂上の松の下に小さな草庵そうあんがあって、一人の老人がつくえによっかかって坐っていた。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
曹操は、つくえの上にひらいて、十遍あまり読み返していたが、どんとこぶしつくえを叩きながら
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
窓の中を覗いて見ると、つくえの上の古銅瓶こどうへいに、孔雀くじゃくの尾が何本もしてある。その側にある筆硯類ひっけんるいは、いずれも清楚せいそと云うほかはない。と思うとまた人を待つように、碧玉のしょうなどもかかっている。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かれらをつくえの上に置いて、合図の太鼓を打つと、第一の大きい亀が這い出して来て、まんなかに身を伏せる。次に第二の亀が這い出して、その背に登る。
そして、しばらくして目を開けて見るとつくえの上の物がはっきり見えた。方棟は喜んで細君に話した。
瞳人語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夫人はそれを見て、ひどく怒って、小翠を呼びつけて口ぎたなく叱った。小翠はつくえっかかりながら帯をいじって、平気な顔をして懼れもしなければまた何もいわなかった。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
彼のつくえの上には、いまたてた易占うらない算木さんぎが、吉か凶か、卦面けめん変爻へんこうを示していた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、わたしが確かに見た。あなたは夜の更けるまでつくえにむかっていましたよ」と、主人は笑っていた。
魚はその晩舟を湖村に繋いでそばに坐っていた。と、鳥のようにひらりと入ってきてつくえの前に立ったものがあった。みると二十はたちばかりの麗人であった。にっと笑って
竹青 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
室の内は敷物、つくえ、寝台にいたるまで、皆清らかでつやのある物ばかりであった。
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
呉用は、香炉台こうろだいを借り、こうくんじ、おもむろに算木さんぎつくえにならべ始めた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土地の者は魏法師の言葉に従うて、藤葛ふじかずらじ、たにを越えて四明山へ行った。四明山の頂上の松の下に小さな草庵があって、一人の老人がつくえによりかかって坐っていた。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その通りにして待っていると、果たして夜半に家根瓦のあいだで物音がきこえて、やがて何物かつくえの上にちて来た。竹筒のなかでもそれにこたえるように、がさがさいう音がきこえた。
そして、間もなく足の短いしょうぎをもって来て下に置き、山をそれに坐らしたが、また入っていって一つの足の短いつくえを持って来た。それはいかにも急がしそうにいったりきたりするのであった。
阿繊 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
と、傍らのつくえにあった玉硯ぎょっけんをつかんで床に砕いたという。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宮殿の上には一人の醜い形をした王がいて、つくえよりかかって罪を決めていた。曾は這うようにして前へ出て往った。王は書類に目をやって、わずかに数行見ると、ひどく怒って言った。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
のきの下に二組のつくえと腰掛を設けて、その一方の几には一人の秀才が腰をかけていた。そこで宋公もその一方の几にいって秀才と肩を並べて腰をかけた。几の上にはそれぞれ筆と紙とが置いてあった。
考城隍 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「いや、つくえって、独り書を読んでいたのだが……」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし人が神の怒りにふれるようなことがあると、その家はきっと不思議なことがあって蛙がたくさんきてつくえねだいであそんだり、ひどいのになるとなめらかな壁を這いあがったがちなかった。
青蛙神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
つくえをそなえ、香をき、予の文房具を取り揃えよ」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)