凛乎りんこ)” の例文
その声の凛乎りんこたる響きと、立ち塞がった身構えのするどさに、さすが殺気だった侍たちも思わず踏み止まった。
薯粥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
多年病魔と戦つてこの大業を成したるの勇気は凛乎りんことして眉宇びうの間に現はれ居れどもその枯燥こそうの態は余をして無遠慮にいはしむれば全くきたる羅漢らかんなり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「武士は食わねど高楊枝たかようじ」の心が、やがて江戸者の「宵越よいごしぜにを持たぬ」誇りとなり、更にまた「ころ」「不見転みずてん」をいやしむ凛乎りんこたる意気となったのである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
げにや恋ぞ強し!——可憐かれんきわまりなかった少女の面は、ほのぼのと熱をきたして、言下に答えたその声すらも、凛乎りんことして決断の強さを示していたものでしたから
日出雄ひでをや、おまへいまこの災難さいなんつても、ネープルスで袂別わかれとき父君おとつさんつしやつたお言葉ことばわすれはしますまいねえ。』とへば、日出雄少年ひでをせうねん此時このとき凛乎りんこたるかほ
多少のすごみを覚えさせるほど蒼白そうはくを帯びた、澄んだ血色のせいであろうと思われましたが、しかし凛乎りんこたる表情や、瀟洒しょうしゃな服装や、胸だの指だのに輝いている宝石を見ると
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
芭蕉の葉色、秋風を笑ひてまがきおほへる微かなる住家すみかより、ゆかしきの洩れきこゆるに、仇心浮きてなかうかゞひ見れば、年老いたる盲女の琵琶を弾ずる面影凛乎りんことして、俗世の物ならず。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
また夫人が夫オースチンの遺書を出版するに至った次第を記した文章は、実に情義並び至っておって、一方においては婦女子の謙徳を現わし、他方においては凛乎りんこたる貞烈の思想を示すものである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
『それにけても、にくきは海賊船かいぞくせん振舞ふるまひ、かゝる惡逆無道あくぎやくむだうふねは、早晩はやかれおそかれ木葉微塵こつぱみぢんにしてれん。』と、明眸めいぼう凛乎りんこたるひかりはなつと、日出雄少年ひでをせうねんは、プイと躍立とびたつて。
「いき」であるためには、なお眼が過去の潤いを想起させるだけの一種の光沢を帯び、瞳はかろらかなあきらめと凛乎りんことした張りとを無言のうちに有力に語っていなければならぬ。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
ある宵われまどにあたりて横はる。ところは海のさと、秋高く天朗らかにして、よろづのかたち、よろづの物、凛乎りんことして我に迫る。あたかも我が真率ならざるを笑ふに似たり。恰も我が局促きよくそくたるを嘲るに似たり。
一夕観 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)