優形やさがた)” の例文
その傍に、フロック姿の若林博士が突立っていて、いかめしい制服姿の警部と、セルずくめの優形やさがたの紳士を、正木博士に紹介している。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
手甲てっこう甲掛けの花売娘であったり、どんどろ大師のお弓であったりしたが、お篠お婆さんに似て小股こまたのきりりとした優形やさがたであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
男気が無いと見定めたからの事でしょうが、優形やさがたで、無類の美男と言われた千代之助は、何処どこへ行っても無礼な仕打で通って来たのでした。
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
案のごとく万太郎は、相手を優形やさがたと見くびッて、手捕てどりにする気でかかりましたが、ハッと気がついて途中からさらにうしろへ飛びかえって
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男には似合しからねど、すべて優形やさがたにのどやかなる人なり、かねて高名なる作家ともおぼえず心安げにおさなびたり。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私の夫という人は優形やさがたせぎすな外見だけがやや木村さんに似ているけれども、その他の点では何も似ていない。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ちょうど寺の門を通りすぎて五、六間行ったと思ったとき、門の中からひょろりと出てきた二十二三の優形やさがたの男。
顎十郎捕物帳:22 小鰭の鮨 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それは本紅ほんこうの胴裏を附けた変縞かわりじまの糸織で、八つ口の開いた女物に袖を通させて、折込んだ広襟を後から直してやれば、優形やさがたな色白の歯医者には似合って見えました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
孫右衛門は優形やさがたの小男、死んで自力じりきはないものの、彦兵衛の手一つでずずっとひきずり得るくらい。
カイアヹエ君は偉大な体格をして態度の沈着な男、これに反してマス君は日本で言へば正宗白鳥はくてう君の様に優形やさがた小作こづくりの男で、一見神経質な、動作の軽捷けいせふな文人である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
五十恰好かっこうで、天窓あたまげたくせに髪の黒い、色の白い、ぞろりとした優形やさがた親仁おやじで、脈を取るにも、じゃかさを差すにも、小指をそらして、三本の指で、横笛を吹くか
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
軍勢に硬軟の区別を立てゝ、軍備へをする訣もないから、優形やさがたの軍隊と言つた風の譬喩表現と見る説はわるい。やはり素朴に、女軍人の部隊と説く考へが、ほんとうである。
最古日本の女性生活の根柢 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
勝れたる容姿かたちといふにはあらねど、優形やさがたにて色白く、黒色くろめがちなる眼元愛らしければ、これに美しききぬ着せたらんには、天晴れ一個の、可憐嬢とも見ゆるならむが、身装みなりのあまりに見苦しきと
小むすめ (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
おや、思いの外いい男だねえ、色が白くて、優形やさがたで、なかなか好い男だ、新撰組というから、鬼からお釣を取るような男ばっかりだと思っていたのに、ホンに人は見かけによらないものだねえ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
競馬の馬のたくましくうつくしき優形やさがたと異なりぬ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
清太郎といふのは二十七八の優形やさがたの男で、頼りない感じはしますが、生きてゐるうちは、隨分好い男にも見えたことでせう。
義兄の政広は優形やさがたの美青年である。「政広、ここへ来い」となると、父の荒い酒気の前におかれて、義兄は油をしぼられた。
氏はフロツクコートを着、優形やさがたの長身を心持ち前屈みにし、幕の垂れてゐる舞台の前面をやゝ興奮した足取りで往つたり来たりしながら、徐ろに口を切つた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
軍勢に硬軟の区別を立てて、軍備えをするわけもないから、優形やさがたの軍隊といったふうの譬喩表現と見る説はわるい。やはり素朴に、女軍人の部隊と説く考えが、ほんとうである。
最古日本の女性生活の根柢 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
偉大な体格の、腹の突き出た諾威ノルヱエ人の船長は両手を組んだまゝ前方を見て動かない。麦藁帽をかぶつた優形やさがたの水先案内は軽快に船橋ブリツヂを左右へ断えず歩んで下瞰かかんながひびきのよい声で号令する。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
顔は見えないが、二十八、九、優形やさがたのようすのいい女なのだ。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
人を引く目の優形やさがたの二十三四の女と変つて
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
途端に、勘のするどい優形やさがたの男は、藪の枯れ葉がカサリと鳴ったかすかな気配に驚いて、忽ち、飛鳥のように人参畑を横に切って逃げ出しました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気がつけば一方にも、今二人して立ちすくませた、異装優形やさがたの曲者が残っています。助勢を呼ぶ様子では、万太郎ひとりで手にあましていると見える。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
噂のとおり、賛之丞はちょっと女好きのしそうな眉目びもく優形やさがたな肩幅を落すくせを持っている。だがその眸の底には、寸間も休まらないというような恐怖をどきどきとひそませているようだ。
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)