保姆ほぼ)” の例文
もう三十五六であったろうが、なりふり構わず生徒のために献身するというたちで、教師というよりは保姆ほぼのような天性の人だ。
風と光と二十の私と (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
学童を愛する点に於いては、学童たちの父母ちちははに及びもつかぬし、子供の遊び相手、として見ても、幼稚園の保姆ほぼにはるかに劣る。
春の枯葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それから、竜見川たつみがわ学園の保姆ほぼ……それはまだしもで、私は寄生木やどりぎとまでののしられたのですわ。いいえ、私だっても、どんなに心苦しいことか……。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「あんた初めて? ぢや、ちよいとびつくりするわねえ」と保姆ほぼさんは案外なれなれしげな調子で言つて、またちらりと千恵の顔を見ました。——
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
もんからなが生徒せいとらを、二人ふたりわか保姆ほぼが、たがいに十五、六にんずつきつれて、いつものごとく、みち左右さゆうに、途中とちゅうまで見送みおくったのであります。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
答『産土うぶすな主宰神しゅさいしんことごと男性だんせいかぎるようじゃ。しかし幼児ようじ保姆ほぼなどにはよく女性じょせい人霊じんれい使つかわれるようで……。』
女と子供との関係は、母子というよりは、保姆ほぼと幼児との間柄に近かった。一生夫をもたずに、子供を仕立てて行こうと誓った女の志は、ますます堅かった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
かくの如くして生れた子供は、育児院の保姆ほぼによって育てられ、他の子供のように田舎へは送られない。
この家の他の人々——即ちジョンとその妻、家婢かひのリア、佛蘭西人の保姆ほぼのソフィ——等は人柄ひとがらのいゝ人たちではあるが、併しこれと云つて面白い所もなかつた。
一つには身勝手な嫂に対するあてこすりもあったが、加計町の方へ疎開した子供のことも気になり、一そのこと保姆ほぼとなって其処そこへ行ってしまおうかとも思い惑った。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
砂場や辷り台で遊んでいる子供らを見張りながら、保姆ほぼたちがここでおしゃべりをする。
キャラコさん:10 馬と老人 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ゴムのお庭に水銀の池を湛えむばかり……出来る事ならイエス様を家庭教師にしてマリヤ様を保姆ほぼにしたい位だったそうで、あらん限りの手を尽して育てました甲斐がありましたものか
霊感! (新字新仮名) / 夢野久作(著)
白ずくめの若い保姆ほぼが乳母車を停めてやすんでいるのだ。
保姆ほぼに云はれて二人は泣きながらまた黙頭うなづいて居た。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あとに警察の保姆ほぼがついている。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そろそろあの子が寝ぼけだす頃だと思つて、千恵は保姆ほぼさんと反対側の壁ぎはの椅子をはなれて、そつとその子のベットのそばへ寄つて行きました。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
「ああ、わたしくたびれたわ。先生せんせい、おんぶしてちょうだい。」と、しろ帽子ぼうしかむった、一人ひとりおんなが、おねえさんにでもねだるように、保姆ほぼさんに、いいました。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
看護婦は再びノッブを廻して次の室へとあらはれる。かすかに揺れ動いた風の気配に、壁にもたれてやすんでゐた若い保姆ほぼの一人が眼をさまして立ち上る。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
たとえちいさくても、二人ふたり子供こどもちからされて、わか保姆ほぼは、あやうくまえのめりになろうとしました。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これは心身ともに病みつかれた彼の後半生にとって、母とも姉とも、また保姆ほぼともなった女性である。彼はまた官途について、ここにつかのまの平安が訪れることになった。
先生せんせいわたし保姆ほぼさんになりたいとおもいますの。」と、一人ひとりむすめが、いいました。
汽車は走る (新字新仮名) / 小川未明(著)
保姆ほぼはいきなり幼児を抱きかかへた。鉄柵を越えて幼児の肉体が宙に浮く。保姆は扉から急ぎ足で庭へ出る。幼児は一きは高く泣いて間もなく黙る。秋の微風と星光が保姆にたのしい。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
西村にしむらさんは、やさしいから、きっといい保姆ほぼさんになれるとおもいますわ。」
汽車は走る (新字新仮名) / 小川未明(著)
いつのまにか立つてゐるのにしばらくしてから気がついて、思はずぞつとしたのです。幸ひその晩は古参の保姆ほぼさんがまだ残つてゐて、その子の癖や扱ひ方などを千恵に教へてくれました。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)