侠客きょうかく)” の例文
昼はかくれて、不思議な星のごとく、さっの幕を切ってあらわれるはずの処を、それらの英雄侠客きょうかくは、髀肉ひにくたんに堪えなかったに相違ない。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
義賊ぎぞく侠客きょうかく謀反人むほんにんの類はそれとなく柴君の弥次馬性に訴えるところがあるんだね。君は自分の家さえ焼けなければ火事は面白いという組だろう?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
慶応けいおう生れの江戸えど天下の助五郎すけごろう寄席よせ下足番げそくばんだが、頼まれれば何でもする。一番好きなのは選挙と侠客きょうかくだ。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
駒形河岸裏の侠客きょうかく出石屋いずしや四郎兵衛が、日ごと夜ごとのようにこの大川筋で入水じゅすいする不了簡者達を戒めるためと
芳年が紫玉の意をはかって、これを花山に告げた。花山はすくいを茶弘に求めた。茶弘は新橋界隈かいわいに幅を利かせていた侠客きょうかくで、花山が親分として戴いていたのである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
此の人は誠に天稟うまれつき侠客きょうかくの志がございまして、弱い者を助け、強い者は飽くまでも向うを張りまするので、村方で困る百姓があれば、自分も困る身上みじょうでございますが
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
縄張りの顔立てなぞに到るまで、決して相手を高飛車にキメ附けるような侠客きょうかく式の肌合いを見せない。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
侠客きょうかくといわれる者は、他にもあるが、「ドテラ婆さん」のような、男か女かわからない、人を殺すことを屁とも思っていない、執拗残忍ざんにんな女に逢ったのははじめてだ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
親分子分というものは、侠客きょうかくとかバクチ打ちとかいう社会にはなくてはならぬものだろうが、世の中が進歩すればするほど、それがなくなるべきはずだと信じているのです。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
伝法院の庭を抜け、田圃の間の畔道あぜみちを真直に行くと(右側の田圃が今の六区一帯に当る)、伝法院の西門に出る。その出口に江戸侠客きょうかくの随一といわれた新門辰五郎しんもんたつごろうがいました。
「親分とか侠客きょうかくとかいうんでしょう。とにかく暴力団……。」とすみ子は声を低くした。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こうこう、こういう事情になっているところを、僕が逃げたというので、その代りに住職に復讐ふくしゅうしようと、町の侠客きょうかく連が二、三名動き出したのを、人に頼んで、ようやく推し静めてもらったが
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
もっとも馬琴ばきんの作に「侠客きょうかく伝」という未完物があるそうで、読んだことはないが、それは楠氏の一女姑摩姫こまひめと云う架空かくうの女性を中心にしたものだと云うから、自天王の事蹟じせきとは関係がないらしい。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ここでは唯、旗本の侍どもから組織されている白柄組や神祇組じんぎぐみのたぐいが、町人の侠客きょうかくの集団であるいわゆる町奴の群れと、日頃からとかくに睨み合いの姿であったことを簡単に断わっておきたい。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
君、おどろいてはいけない。支那の革命運動の大立者、孫文という英雄は、もう早くから日本の侠客きょうかくの宮崎なんとかいう人の家にかくまわれているのだぞ。孫文。この名を覚えて置いたほうがいい。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「こないだ○○町でうたらば、ホラ侠客きょうかくの『○○天山』の新聞で働いとるげなてち——、その言うこつがええたい、こんどはぬしどんが四の五の言うならたたってしまうちゅうけんな、おッそろしか——」
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
男を売るのが商売の侠客きょうかくか。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今、若松で、「ドテラ婆さん」ちゅうたら、ばりばりの女侠客きょうかくじゃ。婆さん、というても、なにも、年寄りじゃない。三十五六の女盛りじゃ。また、ドテラ着とるわけでもない。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
他人でない、扱うてくれたまえ。(神官かんぬしに)貴方あなたも教えの道は御親類。(村長に)村長さんの声名にもお縋り申す。……(力士に)な、天下の力士は侠客きょうかくじゃ、男立おとこだてと見受けました。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蟠作「兄上、かねて聞きましたが浪島文治郎と云うは浪人者で、何か侠客きょうかくとか云う、町人をおどし、友之助のことに世話をする奴で、友之助の事にいて掛合に参ったのでございましょう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
頃は安永年中の事で、本所ほんじょ業平村なりひらむら浪島文治郎なみしまぶんじろうと云う侠客きょうかくがありました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それに母様が厳しくしつければ、その方は心配はないが、むむ、まだ要点は財産だ。が、酒井は困っていやしないだろうか。誰も知った侠客きょうかく風の人間だから、人の世話をすりゃ、つい物費ものいりも少くない。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし天性弱きを助け強きをひしぐの資性に富み、善人と見れば身代しんだいは申すに及ばず、一命いちめいなげうってもこれを助け、また悪人と認むればいさゝか容赦なく飛蒐とびかゝって殴り殺すという七人力にんりき侠客きょうかくでございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)