二歩ふたあし)” の例文
森は二歩ふたあし三歩前へ進み、母を始め姉や娘に向ッて、慇懃いんぎんに挨拶をして、それから平蜘蛛ひらくものごとく叩頭じぎをしている勘左衛門に向い,
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
美女 一歩ひとあしに花が降り、二歩ふたあしには微妙のかおり、いま三あしめに、ひとりでに、楽しい音楽の聞えます。ここは極楽でございますか。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婆さんは一向頓着しない様子で、頬冠の手拭を取つて額の汗をふきながら、見れば一歩ひとあし二歩ふたあしおくれながら歩いてゐる。
買出し (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
細君は入口から二歩ふたあしばかり進んで、箒をとんと突きながら「まだなんですか、あなた」と重ねて返事を承わる。この時主人はすでに目がめている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「さよう」というと南部集五郎は、二歩ふたあしほど前へ進み出たが、「尾行けて参った、深川からな」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は何の気なしに一歩ひとあし礦場こうじょうの中へ踏込んだ。やはり四辺あたりに人の気はいがせなかった。私は不思議に思って怖る怖る誰かに怒鳴どなられはせぬかと心に不安を感じながら二歩ふたあし三歩みあし中へ入って行った。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
通り過ぎて一二間行ったと思うと、女どもはげたげた笑った。清三がふり返ると一番年かさの女がお出でお出でをして笑っている。こっちでも笑って見せると、ずうずうしく二歩ふたあし三歩みあし近寄って来て
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
お源は水を汲んで二歩ふたあし三歩みあし歩るき出したところであった。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
と怒りに堪えず二歩ふたあし三歩みあしきに掛りますと
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一歩ひとあし二歩ふたあし三歩みあし……。」
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
くと、今度こんどは、あし突張つツぱつてうごかない。まへへ、丁度ちやうどひざところおもしがかる。が、それでもこしゑて、ギツクリ/\一歩ひとあし二歩ふたあしづゝはあるく。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
帯の間から頭を出しているのは懐剣かいけんらしい。男は昂然こうぜんとして、行きかかる。女は二歩ふたあしばかり、男の踵をうて進む。女は草履ぞうりばきである。男のとまったのは、呼び留められたのか。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何處どこひゞいて、なにかよふか、辿々たど/\しく一歩ひとあし二歩ふたあしうつすにれて、キリ/\キリ/\とかすか廊下らうかいたる。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
原口さんは、此時又二歩ふたあしばかりあと退さがつて、美禰子と画とを見較みくらべた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ふと、前刻さっきの花道を思い出して、どこで覚えたか、魔除まよけのじゅのように、わざと素よみの口のうちで、一歩ひとあし二歩ふたあし、擬宝珠へ寄った処は、あいてはどうやら鞍馬の山の御曹子おんぞうし
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二歩ふたあし三歩みあしひよろついてるとおもふと、突然いきなり、「なにをするんだ。」といふものがある。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)