中高なかだか)” の例文
中高なかだかの顏、大きい眼、何處までも知的で、透明でそしてイヤ味のない女ですが、世馴れた三十女らしく、言葉の端々、身じろぎの節々に
小山君、よく見給え、玉子を皿の上へ割ってみて黄身きみがこの通り中高なかだかに盛上っていて白身も二段か三段に高くなっているのは新しい証拠だ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ひどく面やつれのした中高なかだかな顔で、額にも頬にも皺が寄り、胸は病気のせいか瘠せて薄くなり、腹はどの水死人にもあるように肥満してはいない。
顎十郎捕物帳:03 都鳥 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
元来ぴしゃんこな鼻だったら缺けていてもそう可笑おかしくはないが、中高なかだかな、いでた容貌、———当然中央に彫刻的な隆起物がそびえているべき顔が
中高なかだかに造りし「ショッセエ」道美しく切株残れる麦畑の間をうねりて、をりをり水音の耳に入るは、木立こだち彼方あなたを流るるムルデ河に近づきたるなるべし。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「先生、おやすみですか」と言いながら私のへやにはいって来たのは六蔵の母親です。背の低い、痩形やせがたの、頭のさい、中高なかだかの顔、いつも歯を染めている昔ふうの婦人おんな
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
かつらの様に綺麗に光らせた頭髪かみの下に、中高なかだか薤形らっきょうがたの青ざめた顔、細い眼、立派な口髭でくまどった真赤なくちびる、その脣が不作法につばきを飛ばしてバクバク動いているのだ。
白昼夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
形は主として丸い中高なかだかの、今謂う鏡餅かがみもちのなりに作るので、或いはまたその名をオスガタとも呼んでいる。オスガタは御姿、すなわち色々の物の形という意味かと思われる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
すると中高なかだかになった噴き井の水に、意外にも誰か人の姿が、咄嗟とっさ覚束おぼつかない影を落した。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その文庫というのは、頃合ころあい手匣てばこで、深さも相応にあり、ふた中高なかだかになっていて柔かい円みがついている。蓋の表面には、少し低めにして、おもいきり大きい銀泥ぎんでいの月が出してある。
神田川のすそになった川面かわづら微藍うすあいの色をしたうしお中高なかだかにとろりとたたえて、客を乗せた一そう猪牙船ちょきぶねが大川の方へ出ようとして、あとを泥絵の絵具のように一筋長くいんしているのが見えた。
鼓の音 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
容貌は非常に高尚で、キッパリした富士額、細面ほそおもて中高なかだかの顔、地蔵眉、澄み切った眼——といって決して冷淡ではなく、あまりに邪心がないために、一点の濁りさえ見られないのである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
紫玉は、中高なかだかな顔に、深く月影に透かして差覗さしのぞいて、千尋ちひろふち水底みなそこに、いま落ちた玉の緑に似た、門と柱と、欄干らんかんと、あれ、森のこずえ白鷺しらさぎの影さへ宿る、やぐらと、窓と、たかどのと、美しい住家すみかた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
黒い髪の毛をぴったりときれいに分けて、かしい中高なかだか細面ほそおもてに、健康らしいばら色を帯びた容貌ようぼうや、甘すぎるくらい人情におぼれやすい殉情的な性格は、葉子に一種のなつかしさをさえ感ぜしめた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
背丈の細りと高い肉附にくづきの彫刻的に締つた中高なかだかな顔の老婦人である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
われはメエルハイムとともに大隊長のしりえにつきて、こよいの宿へいそぎゆくに、中高なかだかにつくりし「ショッセエ」道美しく切株残れる麦畑の間をうねりて、おりおり水音の耳に入るは
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼等は倭衣しずりの肩を並べて、絶え間なく飛びつばくらの中を山の方へ歩いて行った。後には若者の投げた椿の花が、中高なかだかになった噴き井の水に、まだくるくる廻りながら、流れもせず浮んでいた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)