中啓ちゅうけい)” の例文
それがややしばらく続いたのち、和尚は朱骨しゅぼね中啓ちゅうけいを挙げて、女の言葉をさえぎりながら、まずこの子を捨てた訳を話して聞かすように促しました。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
見合みあいとき良人おっと服装ふくそうでございますか——服装ふくそうはたしか狩衣かりぎぬはかま穿いて、おさだまりの大小だいしょう二腰ふたこし、そしてには中啓ちゅうけいってりました……。
烏帽子えぼしがまがり、中啓ちゅうけいが、飛んだ。と、吉良は、美濃守に受けとめられて、すうっと、いたわるように、抱き下ろされていた。
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
禰宜 (略装にて)いや、これこれ(中啓ちゅうけいげて、二十五座の一連いちれん呼掛よびかく)大分だいぶ日もかげって参った。いずれも一休みさっしゃるがいぞ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おぼえが悪いといっては、琵琶のばちで打たれ、節語ふしがたりに、東国なまりが抜けぬといっては、お手の中啓ちゅうけい(半開きの扇)を、このめしいの顔へつけられたり……
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眉太く頬の肉の厚い、逞しい僧は館のあるじ、すなわち定遍僧都であったが、脇息により中啓ちゅうけいを突き、鬼火の姥と範覚と、大弥太とをこもごも眺めながら
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この唄とともに、中啓ちゅうけいの舞が初まるのでございますが、さすがに、名優の至芸と申すのでございましょうか、鐘にうらみの妄執が、浸みでているようでございます。
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
団十郎の秀吉、菊五郎の柴田勝家が呼びもので、これも日々の大入りであったが、この焼香場で勝家が無念のあまりに我が持っている中啓ちゅうけいをひき裂くくだりがある。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
狩衣かりぎぬ差貫さしぬきようのもの、白丁はくちょうにくくりばかま、或いは半素袍はんすおう角頭巾かくずきん折烏帽子おりえぼし中啓ちゅうけい、さながら能と神楽かぐらの衣裳屋が引越しをはじめたようにゆるぎ出すと、笛と大拍子大太鼓がカンラカンラ
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すると、大名の人形が、左手ゆんでを小さがたなつかにかけながら、右手めて中啓ちゅうけいで、与六をさしまねいで、こう云う事を云いつける。
野呂松人形 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、いう歌詞がございますが、ここで、白拍子が冠っている金烏帽子を、手にもつ、中啓ちゅうけいで跳ね上げるところがございます。ところが、この前後で、踊っていらっしゃる半四郎師匠が
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
わたくし服装みなり瞬間しゅんかんかわりましたが、今日きょう平常いつもとはちがって、には白練しろねり装束しょうぞくには中啓ちゅうけいあしにはつるんだ一しゅ草履ぞうり頭髪かみはもちろん垂髪さげがみ……はなはださッぱりしたものでございました。
姉小路少将は、持っていた中啓ちゅうけいで受け止めたけれども、それは何のききめもない、横鬢よこびんを一太刀なぐられて血は満面にほとばしる。二の太刀は胸を横に、充分にやられた。それでも豪気の少将は屈しなかった。
と叫ぶと謙信は中啓ちゅうけいをトンと床へ突いた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
中啓ちゅうけいを」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)