丙午ひのえうま)” の例文
奧さんは突然緘默を破つて、「なんにしろ丙午ひのえうまなのだから」と、獨言のやうに云つた。これは博士の母君の干支えとである。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
一寸こまったが、四五年前までしばらく関係のあった女の事を思出して、「三十一。明治三十九年七月十四日生丙午ひのえうま……。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「あたし、今、気がついたけど、今年は丙午ひのえうまよ。女でのうてよかったわ。丙午の女ははげしすぎて、男を食う、男を殺す、なんて、昔からいうけん」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
したがって今でも僻陬へきすうの地には、生児制限の弊風が往々にして認められる。或る地方では明治三十九年の丙午ひのえうまの年に生児が少かったという事実もある。
特殊部落の人口増殖 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
すなわち太子の御父用明天皇が御悩重らせたまいしとき、それは丙午ひのえうまの年、天皇の元年(紀元一二四六、太子十三歳)のことであったが、大王天皇即ち推古天皇と
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
民間にては丙午ひのえうまの年には大火がある、丙午に生まれたる女子は男を殺すと申すが、これは迷信である。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
実際丙午ひのえうまの女に関する迷信などは全くいわれのないことと思われるし、辰年たつどしには火事や暴風が多いというようなこともなんら科学的の根拠のないことであると思われるが
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「あんたが男はんのためにつくすその心があだになる。大体この星の人は……」年を聞いて丙午ひのえうまだと知ると、八卦見はもう立板に水を流すおしゃべりで、何もかも悪い運勢だった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
火事よりもこの方が人をおびやかしたものでございました……ところがその翌年の丙午ひのえうまですな、その正月がまた大変で、これは夕方から始まりましたが、小石川片町から出まして
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうして逆歯さかばの生えるみどりの全部でなく、丙午ひのえうまの年に生まれた児にそうするといい、または赤ん坊が夜なきをしてこまるときにも、この日返り機を織って着せる村があった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
丙午ひのえうまの問題だけならともかくも、彼にはそれよりも重大な松茸の問題があるので、一生懸命に逃げまわった末に、とうとう不忍の池の底へ自分の命を投げ込んでしまったのであった。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一般に丙午ひのえうまをこそきらうけれども未年の生れを嫌う迷信は、関東あたりにはないことなので、東京の人達は奇異に感じるであろうが、関西では、未年の女は運が悪い、縁遠いなどと云い
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
している方はね、妙に火にたたられていなさるのさ、いえね、丙午ひのえうまの年でも何でもおあんなさりやしないけれど、私が心でそう思うの、二度までも焼け出されておいでなさるんだからね
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せんたる巧笑にわが命を托するものは必ず人を殺す。藤尾は丙午ひのえうまである。藤尾はおのれのためにする愛を解する。人のためにする愛の、存在し得るやと考えた事もない。詩趣はある。道義はない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
時に享保十一丙午ひのえうま年十一月廿一日右の通り裁許さいきよ相濟あひすみ其外金子差出候者共は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その理由は、丙午ひのえうまの年であるために、縁が遠いのを苦にしてである。
改善は頭から (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
閑子は丙午ひのえうま年生れの女であった。そのために受ける不当な迫害と取っ組んで、ミネにいわせれば必要以上にまで青春を葬り、身一つをただ潔白に守り通すことで年をとってしまったような女だった。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
丙午ひのえうまの年に火事で町人まちが五百戸ほど焼けたとき、そこに仮宅を建てることが許され、それがそのまま居着いてしまったのであるが、元は広い空地あきちで、まん中に「堀」と呼ばれる川が流れていた。
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼女は今年二十三、丙午ひのえうまの歳だった。
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
とし十五じふご丙午ひのえうま
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
しかるに薬師三尊の鋪金ほきんいまだ遂げぬうちに、朱鳥元年九月丙午ひのえうま、天武天皇は浄御原宮きよみはらのみやに崩御された。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
ここに京都の迷信の一例を挙げんに、余が明治三十九年の春、大和やまと地方を一巡せしことがある。この年は丙午ひのえうまに当たり、丙は十干の方にて陽火である。すなわち火気の強い方である。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
加賀屋の嫁のお元は弘化二年年の生まれと云っているが、実は弘化三年うま年の生まれであるとお鉄は初めてその秘密を明かした。単に午年ならば仔細はないが、弘化三年は丙午ひのえうまであった。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
天明てんめいろく丙午年ひのえうまどしは、不思議ふしぎ元日ぐわんじつ丙午ひのえうまとし皆虧かいきしよくがあつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
受し師匠の天道と云を縊殺しめころ僞筆にせひつ讓状ゆづりじやうにて常樂院の後住と成り謀計ぼうけいに富たる人なりと云ば寶澤はうち點頭うなづきそは又めうなりとて則ち赤川大膳が案内あんないにて享保きやうほ十一丙午ひのえうま年正月七日の夜に伊豫國いよのくに藤が原の賊寨ぞくさい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「そして丙午ひのえうまの年の火事になりました」と佐八は静かに続けた
丙午ひのえうまの娘を殺すという結果を生ずる。
改善は頭から (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
民間にて「丙午ひのえうまの女は男を殺す」とのことわざがあるが、その意は、丙は陽火に当たり、午は南方の火に当たるゆえに、火に火を加えたるものなれば、その力、男を殺すべき性質であると申すことじゃ。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
懸られたれば終に殘らず白状に及びける是に依てうかゞ相濟あひすみ享保十一丙午ひのえうま年の十一月廿一日町奉行所に於て大岡越前守御勘定奉行駒木根肥後守筧播磨守かけひはりまのかみ野山市十郎松田勘解由立合にて大岡越前守左の通り申渡されける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)