麻縄あさなわ)” の例文
旧字:麻繩
彼の身体をグルグルと麻縄あさなわで縛りあげると、ゴロリと床の上に転がした。そのまま幾日もほうって置いた。無論一滴の水も与えはしなかった。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
別天地の小生涯しょうせいがい川辺かわべ風呂ふろ炊事場すいじばを設け、林の蔭に便所をしつらい、麻縄あさなわを張って洗濯物をし、少しの空地あきちには青菜あおなまで出来て居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
水銀のげちらした鏡一つと、壊れた脚を麻縄あさなわでくるくるといた木の椅子いすが一つあるっきりの身窄みすぼらしい理髪屋であった。
医者は少し呼吸器をおかされているようだからと云って、切に転地を勧めた。安井は心ならず押入の中の柳行李やなぎごうり麻縄あさなわを掛けた。御米は手提鞄てさげかばんじょうをおろした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やがて太き麻縄あさなわもて、犇々ひしひしいましめられぬ。そのひまに彼の聴水は、危き命助かりて、行衛ゆくえも知らずなりけるに。黄金丸は、無念に堪へかね、切歯はぎしりしてえ立つれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
岩壁がんぺきの一たんに、ふとい鉄環てっかんが打ちこんであり、かんに一本の麻縄あさなわむすびつけてあった。で、そのなわはしをながめやると、大きな丸太筏まるたいかだが三そう、水勢すいせいにもてあそばれてうかんでいる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほんの五六尺の麻縄あさなわですが強靱きょうじんたくましくて、これは全く物凄いものです。
この通りはからっ風が強いのか、ぼろ隠しのような布の下には重石おもしがつけてある。石は囚人を縛るような麻縄あさなわでからげてある。ぶた腹綿はらわたを焼いている煙が、もくもくと布の間から立ちのぼっている。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「此者ハ不忠ナル偽病者ニツキ、麻縄あさなわヲ解クコトヲ禁ズ」
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
トラ十は二人の手をうしろにまわさせて、麻縄あさなわでしばった。それから、走れないように、足首のところも結んでしまった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分にはこの朦朧もうろうたるものを払い退けるのが、太い麻縄あさなわみ切るよりも苦しかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
麻縄あさなわ一すじ、輪にして持ち、腰には燧打道具ひうちどうぐ、父譲りの伝来の刀、身軽によそおって
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
入口に遠い方にいる人物はまぎれもなく覆面探偵の青竜王だったが、彼は椅子に腰をかけたまま、身体を椅子ごと太い麻縄あさなわでグルグルに締められていた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と思うと手下の兵に、大きな竹籠や麻縄あさなわをかつがせて再び林の奥へやって来た。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現場には同人どうにんのものらしき和服と二重まわしが脱ぎ捨てられてあったが、その外に何のため使用したか長い麻縄あさなわ遺棄いきされてあった。其の他に持ちものはない。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
武蔵の姿を別当の観音院の前まで尾行つけてきた男の手にも、一匹の犬が麻縄あさなわで曳かれている。今、男が闇へ手招きすると、こうしのような黒犬も共に、闇の方を見てくんくんと鼻を鳴らし始めた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼻緒の下請負したうけおいは、同じ区内の今戸いまどとか橋場はしばあたりの隣町となりまちの、おびただしい家庭工場で、しんを固めたり、麻縄あさなわを通したり、その上から色彩さまざまのさやになった鼻緒をかぶせたり、それが出来ると
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たちまち追いつかれて、五体は麻縄あさなわ縞目しまめにされてしまった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)