鮮麗せんれい)” の例文
無憂樹むうじゅの花、色香鮮麗せんれいにして、夫人が無憂の花にかざしたる右の手のその袖のまま、釈尊降誕の一面とは、ともに城の正室の細工だそうである。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
待乳山まつちやまの若葉は何うかすると眼映しいやうにきらめいて、其の鮮麗せんれい淺緑あさみどりの影が薄ツすりと此の室まで流れ込む。不圖カン/\鰐口わにぐちの鳴る音が耳に入る。古風な響だ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
さらにくすんだあかけやきこずゑにも微妙びめう色彩しきさい發揮はつきせしめて、ことあひだまじつたもみぢ大樹たいじゆこれえないこずゑ全力ぜんりよく傾注けいちゆうしておどろくべき莊嚴さうごん鮮麗せんれいひかり放射はうしやせしめた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
怖々こわごわと茶をおく。——その指先には、祇園の女や伏見には見あたらない鮮麗せんれいな色があった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その地平線は白の地に、黄と少量の朱と、あいと黒とを交ぜた雲とかすみとであった。その雲と霞は数条の太い煤煙ばいえんで掻き乱されている。鮮麗せんれいな電光飾の輝く二時間ぜんの名古屋市である。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ふ。こゑさへ、いろ暖爐だんろ瓦斯がす颯々さつ/\霜夜しもよえて、一層いつそう殷紅いんこうに、鮮麗せんれいなるものであつた。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いまは、のがれんとするもそのすべはなく、この五体、ついに鮮麗せんれいな血をあびるのかと、おもわず胸をだきしめる、とその手のいったふところに、さっきの火独楽ひごまが指にさわった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
車も歳月の力と人の力とにらされて、繩が辛而やつとはまツてゐる位だ。井戸の傍に大株おほかぶ無花果いちゞくがコンモリとしてゐる。馬鹿に好く葉がしげツてゐるので、其の鮮麗せんれい緑色みどりいろが、むし暗然あんぜんとして毒々どく/\しい。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
暖炉だんろ瓦斯がす颯々さっさつ霜夜しもよえて、一層殷紅いんこうに、鮮麗せんれいなるものであつた。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
透きとおるように、色が白く、唇が、朝顔のように鮮麗せんれいで、よわよわしかった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)