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びんづら
其の
雪洞の
消えた
拍子に、
晃乎と
唯吉の
目に
留つたのは、
鬢を
拔けて
草に
落ちた
金簪で……
濕やかな
露の
中に、
尾を
曳くばかり、
幽な
螢の
影を
殘したが、ぼう/\と
吹亂れる
可厭な
風に
小走りに急いで来る、青葉の中に寄る浪のはらはらと
爪尖白く、濃い黒髪の
房やかな双の
鬢、
浅葱の
紐に結び果てず、海水帽を絞って
被った、
豊な
頬に
艶やかに
靡いて、色の白いが薄化粧。
ふと
明いた
窓へ
横向きに
成つて、ほつれ
毛を
白々とした
指で
掻くと、あの
花の
香が
強く
薫つた、と
思ふと
緑の
黒髮に、
同じ
白い
花の
小枝を
活きたる
蕚、
湧立つ
蕊を
搖がして、
鬢に
插して
居たのである。