驕奢きょうしゃ)” の例文
かつはまた執権北条の底ぬけな驕奢きょうしゃ、賭け犬ごのみ、田楽狂い、日夜の遊興沙汰など、何一つ、民の困苦をかえりみはせぬ武家の幕府よ。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
驕奢きょうしゃに近づかない先から、驕奢の絶頂に達しておどり狂う人の、一転化ののちを想像して、こわくてたまらないのであります。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
応仁の乱の責任者として、古来最も指弾されて居るのは、将軍義政で、秕政ひせい驕奢きょうしゃが、その起因をなしたと云われる。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その食事は彼らオランダ人に、この強大な君主の荘厳と驕奢きょうしゃとにふさわしからぬほどの粗食とも思われたという。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
農が十重二十重とえはたえの負担をしなければならない、さむらいという遊民を食わせて、これに傲慢と驕奢きょうしゃを提供する役廻りが、農民の上に負わされて来たという次第です
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
富家ふかにありてはただ無知盲昧もうまい婢僕ひぼくに接し、驕奢きょうしゃ傲慢ごうまんふうならい、貧家にありては頑童がんどう黠児かつじに交り、拙劣せつれつ汚行おこうを学び、終日なすところ、ことごとく有害無益のことのみ。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
此の倫子の羽翼はがいの蔭に人となったことは、如何ばかり右衛門をして幸福ならしめたか知れないが、右衛門の天資がすぐれていなければ、中々豪華驕奢きょうしゃの花の如くにしきの如く
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
然りといえども相互に於ける身分の貴賤、貧富の隔壁を超越仕り真に朋友としての交誼を親密ならしめ、しかも起居の礼を失わず談話の節をみださず、質素を旨とし驕奢きょうしゃを排し
不審庵 (新字新仮名) / 太宰治(著)
だから、秀吉もやはり子孫は長く続かないのではないでしょうか。いったい驕奢きょうしゃをほしいままにして治めた世というものは、むかしから長つづきしたためしがありません。
ゆえに封建時代の農工商は自家の生活を保たんがために労役するにあらず。他人の驕奢きょうしゃに資せんがために労役するなり。すなわち彼らは生活せんがために労役するにあらず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そうなってからでもそれで生計を立てたのではなく月々道修町どしょうまちの本家から仕送る金子きんすの方が比較ひかくにならぬほど多額だったのであるが、彼女の驕奢きょうしゃ贅沢ぜいたくとはそれでも支えきれなかった。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
万一の場合をおもんぱかりてあるいは貯蓄ちょちくするなり、あるいは新事業に手を出すことをつつしむなり、あるいは繁昌にじょうじて驕奢きょうしゃを極むることをめたりすれば、不幸にして利あらぬ事ありとするも
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
余が大臣の一行にしたがいて、ペエテルブルクに在りし間に余を囲繞いにょうせしは、巴里パリ絶頂の驕奢きょうしゃを、氷雪のうちに移したる王城の粧飾そうしょく、ことさらに黄蝋おうろうしょくを幾つともなくともしたるに、幾星の勲章
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
房廓は昼夜数百の電燈を点じて、清気機は常に新鮮なる空気を供給す。房中の粧飾、衣服の驕奢きょうしゃ、楼に依り、房に依り、人に依りて各その好尚を異にす。濃艶なる者は金銀珠玉、鳳凰ほうおう舞ひ孔雀くじゃく鳴く。
四百年後の東京 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
鮮麗とも、絢爛けんらんとも、崇美すうびとも、驕奢きょうしゃとも、たとうるに言葉も絶えた。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
しかし一帯の趣味は葉子の喜ぶようなものではなかった。ちり一つさえないほど、貧しく見える瀟洒しょうしゃな趣味か、どこにでも金銀がそのまま捨ててあるような驕奢きょうしゃな趣味でなければ満足ができなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
驕奢きょうしゃのかぎりをつくして江戸中の取沙汰とりざたになった。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いかに驕奢きょうしゃを事とするも我において損することはあらざるなり。玉杯を作るも可なり。象箸ぞうちょを作るも可なり。銀橋はもって池水に架すべく、白砂糖はもって仮山の白雪を装うべし。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
僧侶の驕奢きょうしゃ淫逸いんいつ乱行懶惰らんだなること、罪人の多く出ること、田地境界訴訟の多きこと等は、第三者の声を待つまでもなく、仏徒自身ですら心あるものはそれを認めるほどの過去の世相であったのだ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)