ためし)” の例文
旧字:
この節、肉どころか、血どころか、贅沢ぜいたくな目玉などはついに賞翫しょうがんしたためしがない。鳳凰ほうおうずい麒麟きりんえらさえ、世にも稀な珍味と聞く。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
凡そこれまで出遇つたためしもなく、終ひにはふら/\病になつてゐた折から、はじめてこの街に移り艦を眺め戦闘機を見あげ
緑の軍港 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
抜いてお斬りになるのが早いか、あっしたちが水へ飛び込むのが早いか、物はためしだ、やってごらんなせえ
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人柄というものはおかしなもので、こんななんでもない挨拶にも実意がこもっている。ついぞ相客のあったためしはないが、結構あきないはあるのだろう。お婆さんが僕に世間話をしかけることもない。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
尤もこの男は世の中の出来事を何一つ不思議がったためしはなかった。たとえ私が伯爵の嗣子よつぎになったといっても怪まないであろう。私は夜が更けてから家へ帰って、ぐっすり寝込んでしまった。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
あなたに背中を向けるとき、わたしの力をおためし下さい。
此の節、肉どころか、血どころか、贅沢ぜいたく目玉めだまなどはつひに賞翫しょうがんしたためしがない。鳳凰ほうおうずい麒麟きりんえらさへ、世にもまれな珍味と聞く。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
トンネル風に組み立てられてゐたから、山崩れその他の災害を蒙つた、ためしも絶無といふ、単に穴倉などゝいふ言葉から想像する陰気なものではなかつた。
冬物語 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「ほほう、たいそう勇ましいの、だがすぐ後悔するだろう、物はためしだ、掛かってみな」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どうもお察し申す所が、わたくしをおためしなさる
「ひゃあ、」と打魂消うったまげて棒立ちになったは、出入ではいりをする、貴婦人の、自分にこんな様子をしてくれるのは、ついぞ有ったためしが無いので。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつの場合でも父と彼とは斯う云ふ回想的な言葉を出したためしがなかつたので、父は大変が悪さうな顔になつて
熱海へ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
ためしに門をたたいて遣りましょう。まさかすぐに
今まで、ついぞ有ったためしは無い。こちらから結婚を申込んでねられるなんて、そんな事——河野家の不名誉よ、恥辱ッたらありませんものね。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
稍ともすれば、それに等しいことを今迄にしろ母親は口にして、実際では何んな類ひの非行を演じたためしとてもない彼を、憐れむべき不良児と見なすのが癖だつた。
裸虫抄 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「それも一段の趣じゃが、まだ持って出たというためしを聞かぬ。」と羽織を脱いでなおせた二の腕を扇子でさする。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
後輩の前では浮べたためしもない、やにさがつたやうな平べつたい口つきで——エヘ……と笑つた。
サクラの花びら (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
以前、私たちが、草鞋わらじに手鎌、腰兵粮こしびょうろうというものものしい結束で、朝くらいうちから出掛けて、山々谷々を狩っても、見た数ほどの蕈を狩り得たためしは余りない。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美奈子のそれには今日の日まで一言もそんな類ひの言葉は誌されたためしがなかつた。
階段 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
近所合壁きんじょがっぺき、親類中の評判で、平吉がとこへ行ったら、大黒柱より江戸絵を見い、という騒ぎで、来るほどに、たかるほどに、とん片時かたときも落着いていたためしはがあせん。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
斯んな素晴らしい綺麗な言葉を私のために決して婦人から聞いたためしのない私は、日頃物語のみで読み魂をあげて切望してゐるお姫様の前に心臓をさゝげる幸福な騎士になつてしまつた私は
歌へる日まで (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
……時間過ぎの座敷などは、(お竹蔵。)の棟瓦に雀が形を現しても、この清葉が姿を見せたためしが無い。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
溝店どぶだなのお祖師様と兄弟分だ、わかい内から泥濘ぬかぬみへ踏込んだためしのないおれだ、と、手前てめえ太平楽を並べる癖に。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真個まことに、ああいう世にまれな美人ほど、早く結縁けちえんいたして仏果ぶっかを得たためし沢山たくさんございますから。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ついぞこちらへはいらっしったためしのございませんのに、しかもあなた、こういう晩、更けてからおいで遊ばしたのも御介抱を申せという、成田様のおいいつけででもございましょう。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その袖をいたり、手を握ったりするのが、いわゆる男女交際的で、この男の余徳ほまちであろう。もっとも出来たためしはない。けだしせざるにあらずあたわざるなりでも何でも、道徳は堅固で通る。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかも爪ほどのおおきさの恐るべき鋭利な匕首ナイフを仕懸けた、純金の指環を取って、これを滝太郎の手に置くと、かつて少年の喜ぶべき品、食物なり、何等のものを与えてもついぞ嬉しがったためしのない
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)