首級くび)” の例文
擧げたる首級くび、仕合せよしと、ほくそ笑み、月の光に晒して見れば、思ひがけない袈裟どのゝ、神々しい、み佛のやうな死に顏ぢや。
袈裟の良人 (旧字旧仮名) / 菊池寛(著)
一人の武士が太刀の先に首級くびをつらぬいて、高くさし下げ、その周囲を巡って五、六十人の武士が踊りつ笑いつ叫んでいるのが見えた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
東の空は、ほのかに、あけぼのめいて来るし、吉良上野介の首級くびは、白小袖に包んで、槍の穂にくくりつけて高く持っているのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鷲郎は黒衣が首級くびを咬ひ断離ちぎり、血祭よしと喜びて、これをくちひっさげつつ、なほ奥深く辿たどり行くに。忽ち路きわまり山そびえて、進むべき岨道そばみちだになし。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「おっかさんもお聞きでしたか。」と半蔵は言った。「いよいよ耕雲斎たちの首級くびも江戸から水戸へ回されたそうですね。あの城下町を引き回されたそうですね。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
首だ、人間の生首なまくびだ。今まで生きて饒舌しゃべっていて、勢いよく部屋を出て行った戸部近江之介の首級くびだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
きゃっと消魂たまぎる叫びとともに宙に飛んだ二つの首級くびがもんどり打って地面へころげ落ちると、さらさらという音がして、折れた麦穂を鮮血あけに染めた。と、真紅まっかになった鎌が高くほうりだされた。
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
先生は大方耳の迷いだろうと思って、ここを立ち去ろうとしますと、今度は別の死骸の、身体からだから離れて転がっている首級くびが、眼をパッチリ開いて、月あかりに先生の顔をジッと睨みながら——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
首級くびを持参の儀苦しゅうない」
相馬の仇討 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
首級くびはある時は片眼だけで老師をはたと睨むかと思うと、次の瞬間には両眼を細め口から長い舌を吐き、声を立てずに冷笑する。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、おの木魂こだま檜林ひのきばやしの奥から静かにひびいていた。光秀は、従兄弟の手に、旗でくるんだ叔父の首級くびをあずけて
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて金眸が首級くびを噬み切り、これを文角が角に着けて、そのまま山をくだり、荘官しょうやが家にと急ぎけり、かくて黄金丸は主家に帰り、くだんの金眸が首級くびを奉れば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
低い位牌壇の左右に二つの首級くびを押し並べた。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
染八の首級くびは、碇綱いかりづなのように下がっている釣瓶つるべの縄に添い、落ちて来たが、地面へ届かない以前まえに消えてしまった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
光春は、首級くびのみける大きさに掘っていたが、光秀は、人間のはいるような穴になるまで、うながしていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
携へ来りし黒衣が首級くびを、金眸が前へ投げれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
早く行け島太夫! そうしてしがらみを連れて来い! 俺は女を見たいのだ。殺された恋人の首級くびを見てどんなに女がもだえ苦しむか俺はそれが見たいのだ。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、年下の光春は——まだ埋める場所もなく手に抱き歩いていた父の首級くびを——そこへおいて云った。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「高遠城主平賀源心! あいつの首級くびだ、あいつの首級だ!」またはっきりと思い出した。「源心の首級を握っている手! ああ、あれは俺の手だ!」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
浪士たちの為に、主人の首級くびを掻き取られたとは云えなかったのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
髪を避け肉にせまり直ちに喉を切ったためか他愛なく首は胴から放れたが、切り口から血は一滴も出ず、一旦落ちて転がった首級くびが、忽然宙に舞い上がるや
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「土岐頼兼を討ち取ったり。……敵ながらも天晴あっぱれ腹切って死んだわ! ……首級くびったは山本九郎時綱!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「敵か味方か存ぜねど、われは村上蔵人くらんど義隆、敵ならば首級くびとって功名にせよ! 味方ならば介錯かいしゃくたのむ!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
十四年目に宗介は弟夏彦の首級くびを持ちおのが城へ帰っては来たがもうその時には柵はのどを突いて死んでいた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「因果を含め観念させ、自首させようと致しましたる所、さすが女の心弱く、急に自害致しましたれば止むなく拙者首打ってござる。いざ首級くびお受け取り下されい」
赤格子九郎右衛門の娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
首級くびは、乱れた髪を額へ懸け、眼を閉じ、無念そうに食いしばった口から幾筋も血を引いていた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
首級くびを洗っている、妖怪じみた姉を見て、まず胆を潰し、ついで、納谷家の古事ふるごとや、当代の主人の不幸の話や、そのようなことばかりを云って、こちらの身の上のことなど
鸚鵡蔵代首伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「鬼王丸と一騎討ち。白髪しらが首を取るか首級くびを取られるか、試して見ることに致しましょう」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、ポッと眼の前へ、一つの生首なまくびが浮かんできた。袴広太郎の首級くびである。と、ポッと消えてしまった。急に古沼が見えて来た。一つの死骸が浮かんでいる。袴広太郎の死骸である。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
死骸の形を綺麗に整え、傍の屏風を引き廻すと、伊賀之助の首級くびを抱きかかえた。
首頂戴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし、その首級くびもユルユルと廻り、頼母へぼんのくぼを見せ、やがて闇の中へ消えた。頼母は全身をこわばらせ、両手を握りしめた。と、またも、窓へ、以前の男の首級があらわれた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夏彦の首級くびだ! ……あの晩は天竜の河のを燐の光が迷っていた。星さえ見えぬ大空を嵐ばかりが吹いていた。湧き立つ浪はたてがみを乱した白馬のように崩れかかり船を左右にもてあそんだ。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、一つのししむら豊かの、坊主首級くびが現われた。それを握っている手が見えた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)