てん)” の例文
乃至はもはや慢気の萌しててんから何の詰らぬ者と人の絵図をも易く思ふか、取らぬとあるに強はせじ、余りといへば人情なき奴
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
なあ浦和名物五家宝粔籹、結構だがちっとべえぷんと来らあな、てんでそいじゃあめりはりってものが合わねえじゃねえか。
浮雲を出して以来、殆んど二十年、てんで創作を構へつけず飜訳ばかりに浮身をやつしてゐたので、寸前暗黒おさきまつくら、困つて居る。
未亡人と人道問題 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
だがよしや汝が世間から棄てられ笑はれ嘲られても汝の肉親の凡ては汝にいてゆく、而して善かれ悪かれ汝の為る事にはてんから信じ切つて居る。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わたしはだれにあやまっていただくのもいやですし、だれにあやまるのもいやな性分しょうぶんなんですから、おじさんに許していただこうとはてんから思ってなどいはしませんの。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
でも此様こんはずでは無かツたがと、躍起やつきとなツて、とこまでツてる、我慢がまんで行ツて見る。仍且やツぱり駄目だめだ。てん調子てうしが出て來ない。揚句あげく草臥くたびれて了ツて、悲観ひくわん嘆息ためいきだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
どうかてんからこきおろしたりはしないで頂き度い! 別れ際に悪口を浴びせるのは宜しくないことぢや、殊に何時また会へるやら知る由もない相手にむかつては尚更のことぢや。
てんから会うのを嫌っているくらいなら会ったところで奥底のない話をしてくれるはずもない。先の女主人が私を向うに廻しているくらいなら女の話はもう所詮しょせん駄目と思わなければならぬ。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「おのれから低めてかかってどうして半人なり一人なりに読ませて面白かったと言わせることができやしょう。それではてんから心構えが違いやす。」
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一体あんな馬鹿野郎を親方の可愛がるといふがわつちにはてんから解りませぬ、仕事といへば馬鹿丁寧ではこびは一向つきはせず、柱一本鴫居しきゐ一ツで嘘をいへば鉋を三度もぐやうな緩慢のろまな奴
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
勿論學校からも、屡ゝ彼に博士論文を提出するやうに慫慂しようようするのであツたけれども、學士は、「博士論文を出して誰に見て貰ふんだ。」といふやうなことを謂ツて、てんで取合はうとはしなかツた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それを、あとから返してくれと申し入れても、そんな物はてんから受け取った記憶おぼえがないという応対。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一体あんな馬鹿野郎を親方の可愛がるというがわっちにはてんからわかりませぬ、仕事といえば馬鹿丁寧ではこびは一向つきはせず、柱一本鴫居しきい一ツで嘘をいえばかんなを三度もぐような緩慢のろまな奴
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
周三は奈何いかなる場合にも「自己」を忘れなかツた。そして何處までも自己の權利を主張しゆちやうして、家または家族かぞくに就いて少しも考へなかツた。無論家の興廢こうはいなどゝいふことはてん眼中がんちゆうに置いてゐなかた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「いかに恨みに思えばとて、相手は一藩の主、手前は郷士上りの一武芸者、竜車りゅうしゃに刃向う蟷螂とうろうのなんとやら、これでは、てんから芝居になりませぬ。あは、あはははは。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
如何に歌人でも才女でも、常識の円満に発達した、中々しっかり者の赤染右衛門でもが、高が従兄弟の妻である。そんなものが兎や角言ったとて、定基の耳にはてんから入らなかったのであろう。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
てんでお話にならぬので、周三は默ツて了ツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
狭い家中に、いっぱいに立ちはだかっている黒装束の連中などは、てんから眼中にないようす。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
此品これをばやってこの源太が恩がましくでも思うと思うか、乃至ないしはもはや慢気のきざしててんからなんのつまらぬものと人の絵図をも易く思うか、取らぬとあるに強いはせじ、あまりといえば人情なき奴
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
燐薬の作用はたらきで、一まわりを経ている死人がまるで生きているように新鮮あざやかだったことなぞも、平兵衛はてんから気に留めなかったが、庭の隅を掘って屍の残部のこりを埋めるだけの用心は忘れなかった。
ところで——かんじんの萩乃は、伊賀の暴れン坊と唄にもあるくらいだから、強いばかりがのうの、山猿みたいな醜男ぶおとこに相違ないと、てんからきめて、まだ見たこともない源三郎を、はや嫌い抜いている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
が、何も知らないお多喜は、そんなことはてんから信じないので
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
てんから問題にしていないらしかった。