雨夜あまよ)” の例文
雨夜あまよたちばなそれにはないが、よわい、ほつそりした、はなか、空燻そらだきか、なにやらかをりが、たよりなげに屋根やねたゞようて、うやらひと女性によしやうらしい。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
晴れ曇る、雨夜あまよの、深いやみの底にまたたく星影——そんなふうに、彼女の眼はなんにも、口でいわないうちに何か語りかけている。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
雨夜あまよの月に時鳥ほととぎす時雨しぐれに散る秋のの葉、落花の風にかすれ行く鐘の、行き暮るる山路やまじの雪、およそ果敢はかなく頼りなく望みなく
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
雨夜あまよ品定しなさだめに現われた女らしい論理が、いかにもそれに相応した言葉で、畦織うねおりのように示された所を見れば、これは殆ど言文一致の文章かと察しられる。
『新訳源氏物語』初版の序 (新字新仮名) / 上田敏(著)
狸退治の極意を一寸こゝにお話すると、(うか成るべく口の中で低声こごゑで読んで欲しい、さもないと狸が立聞たちぎきするかも知れないから)狸はよく雨夜あまよに出て悪戯いたづらをする。
ごらんなさい、雨が降って参りましたよ、あつらえ向きじゃありませんか、雨夜あまよの品さだめ——
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「おさまたげでなくば、雨夜あまよのつれづれに、ちと世間ばなしでも、お耳に入れようかと存じまして」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
面倒めんどうな気がして、源氏は東琴あずまごと和琴わごんに同じ)を手すさびにいて、「常陸ひたちには田をこそ作れ、仇心あだごころかぬとや君が山を越え、野を越え雨夜あまよ来ませる」という田舎いなかめいた歌詞を、優美な声で歌っていた。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
雪の襲って来る前はかえって暖かだ。夜に入って雪の降る日なぞは、雨夜あまよのさびしさとは、違って、また別の沈静な趣がある。どうかすると、梅も咲くかと疑われる程、暖かな雪の夜を送ることがある。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わがいへとほにひとり美しき娘ありしといふ雨夜あまよ夜ざくら
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
なにおもふわかき看護婦夏過ぎて雨夜あまよの空に花火あがれる
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わが山の谷間の花の薄明うすあか雨夜あまよの月にむささびの啼く
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
軒端のきばもる雨夜あまよゆめもともすれば
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
雨夜あまよのお星さま
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
雨夜あまよの月に時鳥ほととぎす時雨しぐれに散る秋のの葉、落花の風にかすれ行く鐘の、行き暮るる山路やまじの雪、およそ果敢はかなく頼りなく望みなく
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
卯辰山うたつやまの山のにあって、霞をまとい、霧を吸い、月影に姿を開き、雨夜あまよのやみにもともし一つ、百万石の昔より、往来ゆききの旅人に袖をあげさせ、手をかざさせたものだった、が、今はない。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
草にさす雨夜あまよの月の薄明うすあかり蛍と見るは露にかあるらん
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
物のなぎ沈むを聴けば草堀の春けにつつ雨夜あまよひさしき
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)