陣笠じんがさ)” の例文
それにつづいて、陣笠じんがさの兵たちも、かわるがわる、声をからして、おーい、おーいとつなみのようにときの声を張りあげた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お、電灯でんきは無論いているのである。それもコードがダラリと垂れ過ぎた。立ってひと結びくくりあげると、白い陣笠じんがさ形の上の埃が両手にくっつく。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
岩田金千代も、鈴木竜作も、裏金の陣笠じんがさをもらって、新らしく入ってきた隊土に、戦争の経験談を話した。
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ソコで大小も陣笠じんがさ一切いっさいの物はヴエンリートの家にあずけて、丸で船頭か百姓のような風をして、小舟に乗込み、舟は段々東にくだってとう/\羽根田はねだの浜から上陸して
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
徳川幕府が仏蘭西フランスの士官を招聘しょうへいして練習させた歩兵の服装——陣笠じんがさ筒袖つつそで打割羽織ぶっさきばおり、それに昔のままの大小をさした服装いでたちは、純粋の洋服となった今日の軍服よりも
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
陣笠じんがさ割羽織に立附たっつけを着用し、帯刀までして、まだ総督を案内したままの服装いでたちも解かずにいる親しい友人を家に迎え入れることは、なんとはなしに半蔵をほほえませた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
騎馬、ぶっさき羽織、陣笠じんがさ姿で、四人ひと組みがくつわを並べながら見まわるしきたりでした。
半鐘はんしょうの音はその暴風雨あらしの中にきれぎれに響いた。郡奉行こおりぶぎょうの平兵衛は陣笠じんがさ陣羽織じんばおり姿すがた川縁かわべりへ出張して、人夫を指揮して堤防の処どころへ沙俵すなだわらを積み木杭きぐいを打ち込ましていた。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ばんざいだのうと陣笠じんがさ、むやみ矢鱈やたらに手を握り合って、うろつき歩き、ついには相抱いて、涙さえ浮べ、ば、ばんざい! 笑い話じゃないぞ、おまえはこの陣笠を笑えない。
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
米国の「ポリティシャン」という言葉は政治屋とでも訳すべきだが、いわゆる陣笠じんがさの意に用いられ、政治を商売とし、何の政見もなく所信もなき者の意味で軽蔑けいべつの意を含んでいる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
陣笠じんがさ立葵たちあおいの紋の付いたぶっき羽織でも着なくっちゃ納まりの付かない紐だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さても伊那丸いなまるは、小袖こそでのうえに、黒皮くろかわ胴丸どうまる具足ぐそくをつけ、そまつな籠手こて脛当すねあて、黒の陣笠じんがさをまぶかにかぶって、いま、馬上しずかに、あまたけをくだってくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陣笠じんがさをかぶった因州の家中の付き添いで、野尻宿の方から来た一つの首桶くびおけがそこへ着いた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
阿爺は年寄の癖に新らしいものばかり着て、年の若いおれには御古おふるばかり着せたがるのは、少し妙だよ。この調子で行くとしまいには自分でパナマの帽子を被って、おれには物置にある陣笠じんがさ
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒船渡来と浦賀うらがの海防ならび異人いじん上陸接待のじょうを描ける三枚絵はまげひげとの対照、陣笠じんがさ陣羽織と帽子洋服との配列まことにこれ東西文化最初の接触たり。慶応義塾図書館にはこれらの錦絵を蔵する事多し。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
みな、一ようの陣笠じんがさ小具足こぐそく手槍てやり抜刀ぬきみをひっさげて、すでに戦塵せんじんびてるようなものものしさ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本陣の玄関先にある式台のところは、これらの割羽織に帯刀というものものしい服装いでたちの人たちで混雑した。陣笠じんがさを脱ぎ、立附たっつけの紐をほどいて、道中のほこりをはたくものがある。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
馭者ぎょしゃが二人、馬丁ばていが二人、袖口そでぐちえりとを赤地にした揃いの白服に、赤いふさのついた陣笠じんがさのようなものを冠っていた姿は、その頃東京では欧米の公使が威風堂々と堀端を乗り歩く馬車と同じようなので
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
供奉ぐぶの御同勢はいずれも陣笠じんがさ、腰弁当で、供男一人ずつ連れながら、そのあとにしたがった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
城下へ出てくる時には、いつも陣笠じんがさに馬乗りで、馬の背には、自分の菜園で作ったいも人参にんじん牛蒡ごぼうをくくりつけて来て、それはいつも泊ると極めている内蔵助の家への土産物みやげものとする。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陣笠じんがさをかぶって両刀を腰にした番兵の先には、弓張提灯ゆみはりぢょうちんを手にした二人の人足と、太鼓をたたいて回る一人の人足とが並んで通ったと言って、嘉吉は目を光らせながら寛斎のいるところへもどって来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一 陣笠じんがさ、厚味三分七厘。お武具方御不用物。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)