阿房あほう)” の例文
且つその狂か、か、いずれ常識無き阿房あほうなるを聞きたれば、驚ける気色も無くて、行水に乱鬢みだれびんの毛を鏡に対して撫附なでつけいたりけり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
精霊しようれうさまのおたなかざりもこしらへくれねば御燈明おとうめう一つで御先祖様へおびをまをしてゐるもが仕業だとお思ひなさる、お前が阿房あほうを尽してお力づらめに釣られたから起つた事
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かようなことを申しますと、何を阿房あほうなことを、どうして、お前の他に、お前さんがありましょう。それは、他人のそら似というもの——と、お笑いになるかも存じません。
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
「から木偶でくの坊のくせにな、ちょっとでも何か置いとくと、すぐにりくさるのでがすよ! こりゃ、阿房あほう、貴様は何しに来たのじゃい? さあ言ってみろ、何の用だか?」
鼻汁はなかんだら鼻が黒もうばかりの古臭い書画や、二本指でひねつぶせるような持遊もてあそび物を宝物呼ばわりをして、立派な侍の知行何年振りの価をつけ居る、苦々しい阿房あほうの沙汰じゃ。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たこ得揚えあげまいと思っていた阿房あほうが、見事に凧を揚げたというだけでは面白くない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
ほとけじゃわい、阿房あほう言うな」
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「なんの、阿房あほうらしい」
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
呼吸いきを殺して従いくに、阿房あほうはさりとも知らざるさまにて、ほとんど足を曳摺ひきずる如く杖にすがりて歩行あゆけり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
精靈しようれうさまのおたなかざりもこしらへくれねば御燈明おとうめう一つで御先祖樣ごせんぞさまへおびをまをしるも仕業しわざだとおおもひなさる、おまへ阿房あほうつくしておりきづらめにられたからおこつたこと
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
イワンの阿房あほうが取り片づけておかなかったため、ついうっかり飲んだのかも知れないて。
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
うれしいとはおもひもせでよしなき義理ぎりだてにこゝろぐるしくよしさまのおあとふてとおもひしはいくたびかさりとてはいのちふたつあるかのやうに輕々かる/″\しい思案しあんなりしと後悔こうくわいしてればいままでのこと口惜くちをしくこれからの大切たいせつになりました阿房あほうらしいんだひとへのみさをだてなになることでもなきを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)