間々まま)” の例文
はや雲深くとざされ、西穂高が間々まま影を現わすより、蒲田がまた谷へ下りかけた事と知れ、折り返して頂上にで、東北へと尾根伝いに下る。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
小説なんかで見ると、動いたりすることも間々ままあるらしい、などと思うと、蟹江はじっと辛抱できないような気持になってきます。
Sの背中 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
これは僕自身にそういう経験があるのみならず、また他人に逢っても、自分みたいなことをやっているわいと感じたことが間々ままあった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
日附ひづけは書いてないが墨色すみいろも書体も一様でないところを見ると、一に書いたものでないことが明らかで、間々まま聯絡れんらくがついている。
狂人日記 (新字新仮名) / 魯迅(著)
君語つて曰く古めかしき草花そうかは植木屋にたのみてもなかには間々ままその名をさへ忘れられしものなぞありて可笑おかしと。さもあるべし。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しかし性質の根柢にある烈しいものが、間々まま現われた。若い時には極度に苦しんだり悲しんだりすると、往々卒倒して感覚を失うことがあった。
私の父と母 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
地所や家作や、現金を持たぬ者は、焼け出された日から、全生活をくつがえされて、ドン底に顛落てんらくしたのは、間々ままあった例です。
序文は文章雅馴がじゆんならずして、間々まま欧文を直訳せる如き語法を交へ、一見その伴天連たる西人の手になりしやを疑はしむ。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
間々まま女子供の声は聞えましたが、いったいにひっそりとして、格別の手配りがあろうとも思われず、風説はただ風説にすぎないかと存ぜられました
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
ふとした口論が、思わぬ犯罪をひき起すのは、間々ままあること、女とて、恋には、男も及ばぬ暴挙をあえてするものだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし同じ問題について、利益を受けようとしても、受けられない事が間々ままあったといわなければならない。先生の談話は時として不得要領ふとくようりょうに終った。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
同じ値段で相当良否の別がある場合が間々ままあるのであるから、まず物を見てよいと認識して後、はじめて買いものをする習慣をつけることが肝要である。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
一、初学の人にして譬喩ひゆ、難題、冠附かむりづけ、冠履、回文かいぶん盲附めくらづけ俳句、時事雑詠等の俳句をものせんとする人間々ままあり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
多くの男の作家志望者の中に間々ままあるように出世の近路をあがき求めて千鶴子が×さんや×氏に出入りした。
沈丁花 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
三時ごろからしばらくの間はすに差し込む西日の影は、かなり暑かった。お庄は芳太郎の昼寝をしている側で、自分もぐったり眠ってしまうようなことが間々ままあった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかし、絹を先方から持ちこまれて、自然それに画を描かなければならないことが間々ままあります。
迷彩 (新字新仮名) / 上村松園(著)
不意に人に突き当られて吃驚びっくりすることが間々ままあり、そのたびに、また始まったなと思う。
第四次元の男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
然るを、世の通ぜざるもの、間々ままこれを疑うあり。蓋し又せましと謂つべし(謹聴々々)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
それはこの話しっぷりでもいくらか判るでしょうが、丁寧ていねいな言葉を使っているかと思うと、すぐまた乱暴な言葉が出てしまう。そのため外交に廻ってても人を怒らすことが間々ままあった。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
というのは、物を書く人が彼等の著書の中の人物に、たまたま実在する人の名前をつけたがために、大変厄介なことになるような場合が間々ままあるということを、私はよく知っているから。
導者さきに我あとにたゞふたり登りゆきし徑路こみちよりは間々まま大いなるべし —二四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ところが、私はその程度を越すことが屡々しばしばある。いゝ草鞋だ、捨てるのが惜しい、と思ふと、二日も三日も、時とすると四五日にかけて一足の草鞋を穿かうとする。そして間々まま足を痛める。
こういった色合いは、あの、ふだんは至っておとなしいが日曜だと間々まま酔っぱらう連中を見受ける衛戍兵えいじゅへいている古い軍服によくあるものだ。画面を補うために、雄鶏も一羽ちゃんと登場していた。
あてがった積りの大人たちもここに至ってすこぶる当惑とうわくした毎夜おそくまで琴や三味線の音が聞えるのさえやかましいのに間々まま春琴のはげしい語調で叱り飛ばす声が加わりその上に佐助の泣く声が夜のけるまで耳についたりするのであるあれでは
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ちょっと聞くともっともらしく思うこともあるが、翻訳のやり方によってははなはだもっともでない実行に現れることが間々ままある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
こうしたことは、間々ままある習いとは云いながら、彼等の様に、双生児でもないのに、双生児と間違う程も似ているというのは、一寸ちょっと珍らしい事でした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一、ぞうの句は四季の聯想なきを以て、その意味浅薄にして吟誦ぎんしょうへざる者多し。ただ勇壮高大なる者に至りては必ずしも四季の変化を待たず。故に間々ままこの種の雑の句を見る。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
論者、間々ままあるいは少年子弟の自治の精神を涵養し、その活溌の気象を発揚するを喜びず、しいてそのやからかりてこれを或る狭隘きょうあいなる範囲内に入れ、その精神をおさえ、その気象を制せんと欲するものあり。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
してみると君が試験に狡猾ずるをしたのは、親孝行のためにしたというのか、「そうでござります」という。こういうことは間々ままある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
世間にはそうした男が間々ままあるものですが、妙に、いろいろな暗黒面に通じていて、例えば、どこそこの女優なら、どこそこのうちへ行けば話がつくとか
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うぬぼれ過ぎた為めに飛んだ失敗を演じる例は、世に間々ままあることですけれど、これはまた自ぼれのなさ過ぎた為の悲劇です。何という本意ないことでしょう。
日記帳 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
本を見ても、人に聞いても、夢遊病者の殺人というのは間々ままある事らしい。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
〔註、所謂暹羅シャムの兄弟に類する癒合双体ゆごうそうたいの生存を保ちし例は、間々ままなきにあらねど、この記事の主人公の如きは、医学上甚だかいし難き点あり。賢明なる読者は、已にある秘密を推し給いしならん〕
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)