重湯おもゆ)” の例文
關取せきとり、ばんどり、おねばとり、と拍子ひやうしにかゝつたことばあり。けずまふは、大雨おほあめにて、重湯おもゆのやうにこしたぬと後言しりうごとなるべし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
枕元の金盥には重湯おもゆとソップを水にひやしてあったが水は何度取り替えてもじきなまぬる湯の様になる。信光は母のすすめる重湯を嫌って
梟啼く (新字新仮名) / 杉田久女(著)
島方の三人は、重湯おもゆをとるやらかゆをつくるやら、その間にあかざの葉の摺餌すりえをこしらえ、藤九郎の卵を吸わせ、一日中、病人の介抱に忙殺された。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その後四五日は重湯おもゆばかりすすっていたので、腹は空いたらしかった。そのつどまかないから届けてくる食事を見るたびに、順吉は不服そうな顔つきをした。
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
いわんや普通の素人しろうとは病人の食物に対して平生へいぜい何の用意もなし、おかゆ重湯おもゆに責めらるる今の世の病人こそあわれなれ。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
幸子が午後から三時頃まで詰めていて帰って行ったあとで、雪子と「水戸ちゃん」とが枕元まくらもとにい、お春が次の間の電気火鉢ひばち重湯おもゆを煮ている時であった
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
重湯おもゆより食べられなくなっていたある時、おしまいの一口になって、ひょっとしたはずみにさじを火鉢の中へ落した実枝は、茶碗のままいねの口へ注ぎこんだ。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
森成さんがもう葛湯くずゆきたろうと云って、わざわざ東京から米を取り寄せて重湯おもゆを作ってくれた時は、重湯を生れて始めてすする余には大いな期待があった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
重湯おもゆから粥鶏卵かゆたま、それから普通食にと食事もだん/\進んで、二週間もたつと元気もすつかり恢復した。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
重湯おもゆを飲む時に、「少し熱うございますか。」と問われると、「うむ。」と返事をした。「丁度宜しいでしょう。」と問われると、やはり「うむ。」と返事をした。
二つの途 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
晩は牛乳と重湯おもゆだけだった。傷にさわるといけないから形のあるものはたべられない。正三君はまたありがたくないお相伴しょうばんをした。やりきれないと思ったが、そこを辛抱しんぼうするのが忠義というものだ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ソップと重湯おもゆだけですが両方ともよく食べなさいます」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかるに我邦わがくに有様ありさまは医師ですらまだ食物療法に注意する人がすくない位ですから素人しろうとの家では病人があると何でもおかゆ重湯おもゆを食べさせて滋養物には玉子と牛乳を
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
重湯おもゆでも少し飲んだらいでしょう。いや? でもそう何にも食べなくっちゃ身体からだが疲れるだけだから」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
看護婦は飲み残しの重湯おもゆをまた覗いてみた。それは朝からまだいくらも飲まれてはいなかった。
生あらば (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
重湯おもゆか、薄粥うすがゆあるひ麺麭パン少量せうりやうはれたけれども、汽車きしやで、そんなものはられなかつた。乘通のりとほしは危險きけんだから。……で、米原まいばらとまつたが、羽織はおりない少年せうねんには、かゆてくれぬ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
チキンブローの重湯おもゆ 冬付録 病人の食物調理法の「第二 チキンブローの重湯」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)