途轍とてつ)” の例文
柿江は爪を噛みつづけたまま、上眼と横眼とをいっしょにつかって、ちらっと西山を見上げながら、途轍とてつもなくこんなことをいった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
イヤハヤ途轍とてつも無い邊にまで利用されるに至つたほどであるが、最初はこれも矢張り支那文學美術すべて支那影響を受けた頃に起つたことである。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
途轍とてつもない事と思うても背に替えられぬ腹を据えて、いかにも日に一人ずつ遣ろうと誓うたので、蛇尾のさきを以て穴を塞ぎ水を止め天魔敗走した。
苦しげなうめごえから喚び起されて妻が語った夢は、彼には途轍とてつもなく美しいもののようにおもえた。その夢の極致が今むこうの空に現れている……。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
だが、あいつは途轍とてつもないペテン師だからなあ。おれは彼奴の眼の前でそう言ってやったよ。『貴様と、あの徴税代弁人とは、天下一の大悪党だ!』
「この野郎、云うにこと欠いては組の若い者が全滅たあなんだ、ばくがおとといの夢を吐きゃあしめえし、途轍とてつもねえことをほざくと向うずねをかっ払うぞ」
初午試合討ち (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
文明国では、身もち看護婦の勤務などということは途轍とてつもない笑話以外にあり得ないことだった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「早いどころか、これは晩種おくでございます。早種わせは正月から出始めます。寒の中でもあの通り石垣に日が当りますから苺は石の温気うんきを夏だと思って途轍とてつもない時に熟します」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
何と途轍とてつもない女護にょごが島の光景がびっこリンピイリンプを包んでることか——GOD・KNOWS。
その亡霊が必ず己の寺へ参詣さんけいして、あるいは深夜、人なきに戸を開き鐘をたたき、あるいは他人のしたる上を圧し、あるいは自ら知己、朋友をうなど、途方途轍とてつもなき俗説を述べ
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
給料を下げてまでも、おもてへ一つ船でくらがえした、途轍とてつもない「わる」であった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
思わずゾクッ! と水を浴びた気の大迫玄蕃が、何事であろう? 誰であろう! 聞耳を立てながら、刀の綱をとく手を休めていると、途轍とてつもない大声だから、皆に聞えたに相違ない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
世間騒がせに、こんなことをしたのではないかとにィ……どうも何だか……世界にそんな途轍とてつもない渦巻や大陸があるなんてことは、いくら先生がそう仰有おっしゃっても信じられんのですがにィ
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
関ヶ原へも途轍とてつもない茶人が現われたそうだが、ここにも絶大なる豪傑がいる。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
途轍とてつもない処へ行合わせて。——お夏さんに引込まれて、その時の暗号あいずになった、——山の井医院の梅岡という、これがまた神田ッ児で素敵に気の早い、活溌な、年少としわかな薬剤師と、二人で。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
目先が見えないので、同行の中村君や南日君と別れ別れになって、途轍とてつもない方へ出て、互に声を懸け合って戻ったことも少なくなかった。後で梓山の猟夫に聞いたらミズシと教えてれた。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
しかも文句が常識外れた。世界文化の千万円じゃの。耳に聞こえず眼にさえ見せない。人の心の狂いを直すの。古今独歩の研究なんどと。途方途轍とてつもない事並べて。寄附を集めるイカサマ坊主じゃ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして、遂に、あの途轍とてつもない事件が起る様になったのだ。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「何をあなた様おっしゃるやら、途方途轍とてつもない出鱈目でたらめで」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そしてわあッと泣きながら、途轍とてつもない声で叫びました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
途轍とてつもないことを囁きはじめるのを十吉は感じる。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
倉地は葉子が時々途轍とてつもなくわかりきった事を少女みたいな無邪気さでいう、またそれが始まったというように渋そうな笑いを片頬かたほに浮かべて見せた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
かかる狂気きちがいじみたところのある僧であったから、三条の大きさいの宮の尼にならせ給わんとして、増賀を戒師とせんとて召させたまいたる時、途轍とてつも無き麤言そげんを吐き、悪行をはたらき
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いや、滅相、途轍とてつもねえ、嬢的にそんなこといわれてたまるもんか、ヘッ
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
恵林寺えりんじの慢心和尚が、途轍とてつもない大きな卒塔婆そとばをかつぎ込んで、従者を一人もつれずに西の方へスタスタと歩いて行くのが、白日はくじつのことですから、すべての人が注目しないわけにはゆきません。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかもそれが大掛りな私遊プライヴェシイなんだから、そのいかにでかだんなものであるかは、あの有名な petting party なんかという途轍とてつもない性的乱痴気ハラバルウが公然と行われている事実からでも
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
途轍とてつもない言葉をしいてくっ付けて木部はそのよく光る目で葉子を見た。そしてすぐその目を返して、遠ざかった倉地をこめて遠く海と空との境目にながめ入った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
途轍とてつもない奇声を揚げた。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
葉子は途轍とてつもなく貞世のうわさとは縁もゆかりもないこんなひょんな事をいった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
とも子 なんですねえ途轍とてつもない。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
すると渡瀬さんは途轍とてつもなく
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)