血刀ちがたな)” の例文
その血刀ちがたなをさげたまま、直人は、そぼふる雨の表へ、ふらふらと出ていった。待ちうけるようにして、バラバラと影がとびかかった。
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
旗野の主人あるじ血刀ちがたなひつさげ、「やをれ婦人をんなく覚めよ」とお村のあばら蹴返けかへせしが、くわつはふにやかなひけむ、うむと一声ひとこゑ呼吸いきでて、あれと驚き起返おきかへる。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
寺町通の町人や往来の人は、打ち合ふ一群を恐る/\取り巻いて見てゐたが、四郎左衛門が血刀ちがたな生首なまくびとを持つて来るのを見て、さつと道を開いた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
見物一同、山の崩れる如くわッ/\という人声ひとごえ、文治は取急ぎ血刀ちがたなを拭い、お町に支度を改めさせて与力に向い
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かれが血刀ちがたなを振って、狂喜きょうきのこえを空になげると、クロはしずかにおりてきて、小船のはしに、翼をやすめた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一行にまじっていたわかい男が血刀ちがたなを持って立っていた。怪しい女は仰向あおむきになってその足もとへ倒れていた。
女賊記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
波〻伯部が帰って来た時、戸倉は血刀ちがたなふるって切付けた。身をかわして薄手だけでのがれた。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
広い邸内を、唯ひとり血刀ちがたなを下げて相手を求めて歩き廻っていたところは、天晴あっぱれな若武者ぶりだったとある。もっとも、がんどう頭巾というやつ、あれをスッポリかぶって眼だけ出していた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
浪人は血刀ちがたなを鞘に納めて四人を見かえりました。
半七捕物帳:60 青山の仇討 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
相川は重箱をげて、孝助殿気を付けてけと云いながら参りますると、向うよりすゝきだゝみを押分けて、血刀ちがたなを提げ飛出して、物をも云わず孝助に斬り掛けました。
その血刀ちがたなひっさげたまま千之介は、隣りつづきの林田門七のお長屋目ざしつつ駈け出すと、物をも言わず躍り入りざま、そこに今別れたばかりの門七が立て膝し乍ら
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
するといっぽうの急坂きゅうはんからも、血路けつろをひらいた卜斎ぼくさいが、血刀ちがたなを引っさげてこの磯へ目ざしてきたので、ふたりは前後ぜんごになって磯の岩石がんせきから岩石を飛びつたい、やがて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長範をば討って棄て、血刀ちがたな提げて呼吸いきつくさまする、額には振分たる後毛おくれげ先端さき少しかかれり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若侍はすぐと立派にとゞめを刺して、血刀ちがたなふるいながら藤新の店頭みせさき立帰たちかえりましたが、もとより斬殺きりころす料簡でございましたから、ちっとも動ずる気色もなく、我が下郎に向い
「あの老人が、血刀ちがたなを下げた白衣びゃくえの影にパッタリ行き会ったらどうする気だろう?」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然し、そんな物は、ひとみに映っても、心には映らなかった。丘をのぼってゆくと、地線に起伏のある広い萱原が眼にひらけて来た。その枯野を踏んで、一人の男が血刀ちがたなを提げて、起っていた。
御鷹 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「すわとばかり、組みつきましたなれど、なにせい、血刀ちがたなを持っている上に、いつものような死物狂い、とても、二人の敵ではなく、みるまにあの柵際さくぎわから西谷にしだにへ向って、身を躍らせてしまいました」
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)