藻抜もぬ)” の例文
旧字:藻拔
結局二人藻抜もぬけのからみたいにさして、この世の中に何の望みも興味も持たんと、ただ光子さんいう太陽の光だけで生きてるように
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
みずから案内して戸を明けた家は、今は藻抜もぬけのからとなって、金吾もお粂の姿も見えず、薬の香ばかりが壁に残る一番奥の四畳半。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして棺の蓋を開いてみると、中は藻抜もぬけのからで、あの轢死婦人の屍体が無くなっているッて! ウン、そりゃ本当か。……君、気は確かだろうネ。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
唐紙を押し倒すように飛込んで行くと、お糸の床は藻抜もぬけのからで、その側に女中のお千代が、あまりの事に尻餅をついたなり、ろくに口もきけません。
その横に敷いてあるオモヨさんの寝床は藻抜もぬけの殻で、夜具が裾の方に畳み寄せてありまして、ぐくしの高枕が床のまん中に置いてある切りで御座います。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
東雲しののめの光が雪の障子にぽうっと白くして、大窓の夜は明けた。有明の月が山の端から青白い顔をして覗いている、私の体を藻抜もぬけ出た魂のかけらではないかと思った。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
やア、どうも済みませんでした……で、車庫ギャレージのほうはどうでした? やっぱり車庫ギャレージ藻抜もぬけのから、それで……それで……なに、なんだって? お客さまが殺されている⁉……
白妖 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
藻抜もぬけのように立っていた、わしたましいは身に戻った、そなたを拝むとひとしく、つえをかい込み、小笠おがさを傾け、くびすを返すとあわただしく一散にけ下りたが、里に着いた時分に山は驟雨ゆうだち
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、私は急に魂を奪われた人間のように、藻抜もぬけの殻の肉体だけが、舞台の上であやつり人形のように、周囲の人達の動くのに連れられて、ボンヤリ動いていたのに過ぎませんでした。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
天幕に入って、ふとクラパの寝床をのぞいて見ると、中は藻抜もぬけのからだった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
預かり中の病人が、寝床を藻抜もぬけのからにして、紛失したとあっては、これは責任上、かなり驚いていい事件である。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は、藻抜もぬけのからの寝台の上に身を投げかけると、あたりははからずオンオン泣き出した。その奇妙な泣き声におどろいて、婦長が駆けつけてくる。朋輩ほうばいが寄ってくる。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
元の心は藻抜もぬけの殻だよ。人の形をしているだけに。犬や猫より始末が悪いよ。情ないとも何ともとも。なろう事なら代ろうものをと。歎きもだえた揚句あげくの果てが。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
藻抜もぬけのやうにつてた、わしたましひもどつた、其方そなたをがむとひとしく、つえをかいみ、小笠をがさかたむけ、くびすかへすとあはたゞしく、一さんりたが、さといた時分じぶんやま驟雨ゆふだち
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
老禰宜もむすめも、その子どもも、どこへ行ったか、寝部屋は藻抜もぬけの殻になっている。彼女はちょっと茫然ぼうぜんとしたが、またかえって安心もした容子だった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蒲団ふとん藻抜もぬけのからになっているし、台所の戸口が一パイに開け放されて月あかりがしているので、どこに行ったのか知らんと家の内外うちそとを見まわったが、出て行ったあとで又、雪が降ったらしく
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と——そこが、藻抜もぬけのからなので
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もちろん、藻抜もぬけのから。彼は
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)