ふな)” の例文
船全体を、小きざみに震動させる機関の響き、ひっきりなしにふなべりをうつ波濤はとうの音、ふと忘れている頃に襲いかかる大うねりの、すさまじい動揺。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
尊氏のいいつけは、彼の耳のそばでささやかれたので、どんな内容かは、おなじふなやぐらにいた、師直もろなお賢俊けんしゅん、ほか幕僚の諸将にもわからなかった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕等はやむを得ずふねばたに立ち、薄日うすびの光に照らされた両岸の景色を見て行くことにした。もつとふなばたに立つてゐたのは僕等二人に限つたわけではない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
やがて、あついコーヒーがはこぼれ、わかいふなのりはひといきつくと、まだこうふんのさめないようすで話しだした。
いよいよ、いちばんおしまいのしなを見おわったとき、王女は商人しょうにんにおれいをいって、かえろうとしました。ところが、ふなべりへでてみますと、なんということでしょう。
平潟ひらかたふな番士で、その剣筋、幅もあれば奥ゆきもゆたかに、年配は四十に手のとどく円熟練達の盛年。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ふな後光の正式は飛天光という。天人と迦陵頻伽かりょうびんが、雲をもって後光の形をなす。その他雲輪光うんりんこう、輪後光、ひごの光明(これは来迎仏らいごうぶつなどに附けるもの)等で各々真行草しんぎょうそうがあります。余は略す。
が、ふなべりをめてふやうに、船頭がかんてらを入れたのは、端の方の古船ふるぶねで。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
船を一郭として、人間と機械とが完全に協力して、自然と戦っている時に、船員たちは、自分たちが、ふなのりであることを、この時以上にしゃくにさわり、心細くなり、哀れに気の滅入めいることはなかった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
星月夜ねぐら求めてわがふなべりを雲はただよひ
「ははは。羽田ならふな饅頭だッけなア」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
ふな餘り三二 いがへりこむぞ。
に歌をふなをとこ。
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ふなのりは、その時、なぜともなく宿屋やどやの前で会ったシルクハットをかぶったみょうな男のことと、そのとき空中くうちゅうからきこえた声のことをふっと思いだした。
ふなあつめ
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふなのりはいつのまにか、わかいなかまのふしぎな話にひきずりこまれて、熱心ねっしんにきいていた。