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ぬが
かく言ひつつ彼は
艶々と
赭みたる
鉢割の広き額の陰に小く点せる
金壺眼を
心快げに
瞪きて、妻が例の如く
外套を
脱するままに立てり。
腕を隠せし花一輪削り二輪削り、
自己が意匠の
飾を捨て人の天真の美を
露わさんと勤めたる
甲斐ありて、なまじ着せたる花衣
脱するだけ面白し。
「
衣物濡れたやうだな、
脱せたらよかつぺ、それに
酷く
汚れつちやつたな」
亭主はいつて
捲つた
蒲團へ
手を
當て
見た。
改むるに金子二十兩有て
着類は見えず是は
賣代なせしやと女房を見れば貧家に
似合ず下に
絹物を着込居るゆゑ
脱せて見れば男
小袖なり是はと役人共も思ひ
直さま手配をなして
庄兵衞を
脱ぬうち穀屋へ行て
來やうか扨々
腹が
減たお峰や一寸一杯
喰込で行うと
腰を掛け
居處へ當宿の村役人段右衞門と
岡引吉藏
案内にて八州
廻の役人どや/\と
押來り
上意々々と聲を
掛飛懸つて富右衞門を
脱せ
古袷一枚
錢三百文與へて
何國へなりと
出行べしと
勘當なしければ番頭若い者等
種々詫言すると雖も吉右衞門承知せず
其儘古河へ歸りけり依て吉之助は
今更途方に
昏此體にては
所詮初瀬留にも
逢れず死ぬより外に
詮術なしと
覺悟を