羽蟻はあり)” の例文
つくづく見れば羽蟻はありの形して、それよりもややおおいなる、身はただ五彩の色を帯びて青みがちにかがやきたる、うつくしさいわむ方なし。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蔓草は壁に沿ってのきまで這上り、唐館は蜻蛉とんぼ羽蟻はありの巣になっていると見えて、支那窓からばったや蜻蛉がいくつも出たり入ったりしている。
紫色の紋のある美しいちょうが五、六羽、蜂が二種類、金亀子こがねむしのような甲虫こうちゅうが一種、そのほかに、大きな山蟻やまあり羽蟻はありもいる。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
広茫こうぼうたる平原の向うに、地平をぬいて富士が見える。その山麓さんろくの小家の周囲を、夏の羽蟻はありが飛んでるのである。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
わっ——と動揺どよめいた後は、もう誰彼の見わけもつかなかった。小さな旋風つむじの中に、かたまり合って吹かれてゆく羽蟻はありの群れみたいに乱闘が始まったのだ。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕の部屋の窓を夜どおし明けはなして盗賊の来襲を待ち、ひとつ彼に殺させてやろうと思っているのであるが、窓からこっそり忍びこむ者は、羽蟻はありとかぶとむし、それから百万の蚊軍。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
電灯にむれとべる羽蟻はありおのづからはねをおとしてたたみをありく
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
羽蟻はあり飛ぶや富士の裾野の小家より
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
ケビンから 羽蟻はありみたいに
(新字旧仮名) / 新美南吉(著)
羽蟻はありからの墓どころ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
何時いつ羽蟻はありが飛び
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
つくづく見れば羽蟻はありの形して、それよりもややおおいなる、身はただ五彩ごさいの色を帯びて青みがちにかがやきたる、うつくしさいはむかたなし。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
羽蟻はあり飛ぶや富士の裾野の小家より
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
翌日の午後の公園は、炎天の下に雲よりは早く黒く成つて人がいた。煉瓦れんが羽蟻はありで包んだやうなすさまじい群集である。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
三百にんばかり、山手やまてから黒煙くろけぶりげて、羽蟻はありのやうに渦卷うづまいてた、黒人くろんぼやり石突いしづきで、はまたふれて、呻吟うめなや一人々々ひとり/\が、どうはらこし、コツ/\とつゝかれて、生死いきしにためされながら
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それだけにまた、盗賊の棲家すみかにでもなりはせぬか、と申します内に、一夏、一日あるひ晩方から、や、もう可恐おそろし羽蟻はありが飛んで、ふもと一円、目もきませぬ。これはならぬ、と言う、口へ入る、鼻へ飛込む。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山手やまてから黒煙くろけぶりを揚げて、羽蟻はありのやうに渦巻いて来た、黒人くろんぼやり石突いしづきで、浜に倒れて、呻吟うめき悩む一人々々が、胴、腹、腰、背、コツ/\とつつかれて、生死いきしにためされながら、抵抗てむかいも成らずはだかにされて
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
煉瓦れんが羽蟻はありで包んだようなすさまじい群集である。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)