おど)” の例文
具足は、馬の皮の裏をわざと表につかって、それへうるしをかけた物であるから、粒漆つぶうるし粗目あらめに出て、渋い好みであった。それを浅黄色の木綿糸でおどしたのを着ていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黄金こがね作りの武田びし前立まえだて打ったる兜をいただき、黒糸に緋を打ちまぜておどした鎧を着、紺地の母衣ほろに金にて経文を書いたのを負い、鹿毛かげの馬にまたがり采配を振って激励したが
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
小道具など色々の細工物に金銀をついやし高価の品を作り、革なども武具のおどしにも致すべきものを木履ぼくり鼻緒はなおに致し、もっての外の事、くつは新しくとも冠りにはならずと申すなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
また神河内へと戻って来た私は、蒲田谷の乱石をわたるとき、足首を痛め、弱りこんでいたが、穂高岳の黒くおどした岩壁が、鶏冠とさかのような輪廓を、天半に投げかけ、正面を切って
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
なかから矢が二本てゐる。鼠色の羽根と羽根のあひだが金箔でつよひかる。其傍そのそばよろひもあつた。三四郎は卯の花おどしと云ふのだらうと思つた。向ふがはの隅にぱつとを射るものがある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いろいろの浪をおどした、よろいの袖をしぶきかざす。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
光秀は白地銀襴ぎんらんの陣羽織に黒革くろかわの具足をまとっていた。おどしの糸は総萌黄そうもえぎであった。太刀もく、良い鞍をすえていた。常の彼よりはこの日の彼は非常に若々しく見られた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
の花やおどし毛ゆらり女武者
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あ、これですね。前田青邨せいそん氏がめておられたはなおどしは」と、嘉治さんは杉本画伯と共によろいの前にたたずむこと久しい。それはでん平ノ重盛の紺糸縅しと隣り合っていた。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬上の道誉は、黄のおどしのよろいに、四ツ目ゆいの紋を打った陣笠をかぶっていた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はなおどしの草ずりをゆりうごかして、戞々かつかつと、退いて来た強者つわものがある。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒革にもえぎおどしの地味なよろい、そのよろい下の白いえりもとが、肌着だけでなく、そこはかとない清潔さを象徴していた。うしろからは、正行が、ややうつむきかげんに父に添ってあるいてくる。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高氏は、卯ノ花におどした黒革のつやつやしい具足、よろいを着込み
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのとき、多宝塔たほうとうとびらをはいして、悠然ゆうぜん壇上だんじょう床几しょうぎをすえ、ふくみわらいをして、こう見下ろしたのは、伊那丸いなまるであった。白綸子しろりんずの着込みに、むらさきおどしの具足ぐそく太刀たちのきらめきもはなばなしい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)