篳篥ひちりき)” の例文
そのほか篳篥ひちりきなどは、いずれあとからなぞらえたものであろうが、築山、池をかけて皆揃っている。が、いまその景色を言う場合でない。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その詰めたり何かする間にも、しょう篳篥ひちりきのごとき笛を吹き太鼓を打ち、誠に殊勝なる経文を唱えてなかなかありがたく見えて居ります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
範実のりざねなどと云ふ男は、篳篥ひちりきこそちつとは吹けるだらうが、好色かうしよくの話となつた日には、——まあ、あいつはあいつとして置け。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
蚕豆そらまめの葉をすふと雨蛙の腹みたいにふくれるのが面白くて畑のをちぎつては叱られた。山茶花の花びらを舌にのせて息をひけば篳篥ひちりきににた音がする。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
が今、武蔵の耳をいたく刺戟したのは、その風の間に流れて来た——しょう篳篥ひちりきと笛とを合奏あわせた古楽の調べであった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし露伴先生がそれよりもさらに愛敬されたのは寅彦の学問であって、「君に篳篥ひちりき、笳の談をし、君から音波と物質分子位置の変化との関係をきく」
露伴先生と科学 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
しょう篳篥ひちりきノヨウナモノヲ鳴ラサレルノハ迷惑ダケレドモ、誰カ一人、富山清琴ノヨウナ人ニ「残月」ヲ弾イテ貰ウ。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
宮をあげてのせう篳篥ひちりき浦安うらやすまひ。國をあげての日章旗、神輿みこし、群衆。祝祭は氾濫し、ああ熱情は爆發した。轟けと、轟けとばかりに叫ぶ大日本帝國萬歳。
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
しかしてたとへば琵琶びわの頸にて、おとその調しらべ篳篥ひちりきの孔にて、入來る風またこれを得るごとく 二二—二四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
いつも篳篥ひちりきを吹く役にあたる随身がそれを吹き、またわざわざしょうの笛を持ち込んで来た風流好きもあった。僧都が自身できん(七げんの唐風の楽器)を運んで来て
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
まず篳篥ひちりきの音がした。つづいてしょうの音がした。からみ合って笛の音がした。やがて小太鼓が打ち込まれた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「チヤンヤリホイロ……」なぞと、輕く疊を叩きつゝ、手拍子を取つて、篳篥ひちりきの樂譜をやり出した。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
太鼓たいこしょう篳篥ひちりきこと琵琶びわなんぞを擁したり、あるいは何ものをも持たぬ手をひざに組んだ白衣びゃくいの男女が、両辺に居流れて居る。其白衣の女の中には、おかずばあさんも見えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
演奏者は写生図(図331)にあるように、それを両手で持つ。指導者は年とった男で、笛を吹き、時に途方もない音を立てる一種の短いフラジオレット〔篳篥ひちりき?〕を吹いた。
鈴の音も、しょう篳篥ひちりきの音も、そうかと思うと太鼓の音がどろどろどんどんと伝わりました。
天蓋てんがいしょう篳篥ひちりき、女たちは白無垢しろむく、男は編笠をかぶって——清楚せいそな寝棺は一代の麗人か聖人の遺骸いがいをおさめたように、みずみずしい白絹におおわれ、白蓮の花が四方の角を飾って
物に滲み入るようなしょうの音、空へ舞い上がるような篳篥ひちりきの音、訴えるような横笛の音が、互いに入り乱れ追い駆け合いながら、ゆるやかな水の流れ、静かな雲の歩みのようにつづいて行く。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しょう篳篥ひちりきの音が始まった。私たちは立ちあがってその方へ見に行った。
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
初秋はつあきさき篳篥ひちりきを吹くすいつちよよ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
稚児二人あたかも鬼にえきせらるるもののごとく、かわるがわる酌をす。静寂、雲くらし。うぐいすはせわしく鳴く。しょう篳篥ひちりきかすかに聞ゆ。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、その間には太鼓、しょう篳篥ひちりき、インド琴あるいはチベット琴、笛などいろいろ楽器類及び宝物を持って行くのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
おおかた、天平てんぴょうの昔のようにしょう篳篥ひちりきの楽器をならべて、その清女たちが、神楽かぐらの稽古をしているのであろう。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
となえ出した。琴が鳴る。篳篥ひちりきが叫ぶ。琵琶がする。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
初秋はつあきちひさ篳篥ひちりきを吹くすいつちよよ。
そぞろごと (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
いつしかに篳篥ひちりきあかる谷のそら
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
丁々坊は熊手をあつかい、巫女みこは手綱をさばきつつ——大空おおぞらに、しょう篳篥ひちりきゆうなるがく奥殿おくでんに再び雪ふる。まきおろして
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それらはまあよい方の仕事で、なお大きな笛やしょう篳篥ひちりきを吹いたり太鼓を打ったり、あるいは供養物くようもつを拵えたりするのも、やはり壮士坊主の一分の仕事になって居るのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
人形使 しょう篳篥ひちりきが、紋着袴もんつきばかまだ。——消防夫しごとしが揃って警護で、お稚児がついての。あとさきの坊様は、こうかっしゃる、御経を読まっしゃる。御輿舁みこしかつぎは奥の院十八軒の若いしゅ水干烏帽子すいかんえぼしだ。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)