立見たちみ)” の例文
向揚幕むこうあげまくより役者の花道に出でんとする時、大向う立見たちみの看客の掛声をなすは場内の空気を緊張せしむるに力ある事うた鳴物なりものまさる事あり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
呉服店ごふくみせでも大分だいぶ立見たちみをした。鶉御召うづらおめしだの、高貴織かうきおりだの、清凌織せいりようおりだの、自分じぶん今日こんにちまでらずにぎた澤山たくさんおぼえた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
粟餅の立見たちみなどをして遅くなったので、急いで帰ります。その途中藤村ふじむらで、父からの頼みの羊羹ようかんを買いました。藤村は大学の横手にあるよい菓子店です。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
ちょっとのぞきに来たつもりで、うかうかと立見たちみをしてしまった隣の宿屋の番頭も、つり込まれて慷慨こうがいてい
そしてF君を連れて、立見たちみと云う宿屋へ往かせた。立見と云うのは小倉停車場に近い宿屋で、私がこの土地にいた時泊った家である。主人は四十を越した寡婦かふで、ちんを可哀がっている。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
悠然いうぜんとして巻煙草まきたばこを吸ひ初める。長吉ちやうきちは「さうか」と感服したらしく返事をしながら、しか立上たちあがつたまゝに立見たちみ鉄格子てつがうしから舞台のはうながめた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
翌日あくるひ午後ひるすぎまたもや宮戸座みやとざ立見たちみ出掛でかけた。長吉ちやうきちは恋の二人が手を取つてなげく美しい舞台から、昨日きのふ始めて経験したふべからざる悲哀ひあいの美感にひたいと思つたのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
まくが動く。立見たちみ人中ひとなかから例の「かはるよーウ」とさけぶ声。人崩ひとなだれがせまい出口のはうへと押合おしあうちまくがすつかり引かれて、シヤギリの太鼓たいこ何処どこわからぬ舞台の奥から鳴り出す。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
翌日あくるひ午後ひるすぎにまたもや宮戸座みやとざ立見たちみに出掛けた。長吉は恋の二人が手を取って嘆く美しい舞台から、昨日きのう始めて経験したいうべからざる悲哀の美感にいたいと思ったのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
平気な顔でちょうちゃんはあたいの旦那だんなだよと怒鳴どなった。去年初めて学校からの帰り道を待乳山で待ち合わそうと申出もうしだしたのもお糸であった。宮戸座みやとざ立見たちみへ行こうといったのもお糸が先であった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
長吉はいかほど暖い日和ひよりでも歩いているとさすがにまだ立春になったばかりの事とてしばらくの間寒い風をよける処をと思い出した矢先やさき、芝居の絵看板を見て、そのまま狭い立見たちみの戸口へと進み寄った。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
濡れた水着のままでよく真砂座まさござ立見たちみをした事があった。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)