空箱あきばこ)” の例文
とこものの、ぼたん、ばらよりして、缺摺鉢かけすりばち、たどんの空箱あきばこ割長屋わりながや松葉まつばぼたん、唐辛子たうがらしいたるまでこゑせばふしになる。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それはほかでもない。ホテルの裏口に積んであった空箱あきばこの山が崩れて、そのあたりは雪がふったように真白に、木屑きくずが飛んでいることであった。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
男は、ほっとしたようにつぶやき、むぎわらや空籠あきかご空箱あきばこで、すっかり部屋へやよごれてしまったのも、気かつかぬようだった。
空箱あきばこを寄せ集めて作ったのですから、でこぼこがあるのです。では、皆さま。わたしたち三人、これこそは正義の劇団。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
その三つならんだ入口のいちばん左側ひだりがわには空箱あきばこむらさきいろのケールやアスパラガスがえてあって小さな二つのまどには日覆ひおおいがおりたままになっていました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
私の「趣味の蒐集」——巻煙草の空箱あきばこ。見聞。「がいはくなちしき」。各国文明の長所。煤煙と塵埃。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
健ちゃんは空箱あきばこの小さいのへ蛙を入れて、寝床へはいったより江の枕元まくらもとへ持って行ってやりました。
(新字新仮名) / 林芙美子(著)
が、玩具屋の店の中は——殊にこの玩具の空箱あきばこなどを無造作むぞうさに積み上げた店の隅は日の暮の薄暗さと変りはない。保吉はここへ来た時に何か気味悪さに近いものを感じた。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あんまりこまかいので、チリリンヤはそれをリンゴの空箱あきばこにまとめて村を出ていった。道みち、いろんな用たしをしながら一本松までくると、リンゴの箱をそのままかついで歩きだした。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
大磯おほいそちかくなつてやつ諸君しよくん晝飯ちうはんをはり、自分じぶんは二空箱あきばこひとつには笹葉さゝつぱのこり一には煮肴にざかなしるあとだけがのこつてやつをかたづけて腰掛こしかけした押込おしこみ、老婦人らうふじんは三空箱あきばこ丁寧ていねいかさねて
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
それは外国人がホテルへついて荷物を大きな荷造りの箱から出したその空箱あきばこがいくつも重ねてある場所であった。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
部屋の中に空箱あきばこのように風が沁みて行ったが、生きている喜びも何も感じられないほど、すべてが貧弱なもので、二じょうと八畳きりの座敷の中には、この僕一人が道具らしい存在だ。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
どうです、これは、ちょっとした舞台でしょう? わしが先刻さっき毛氈もうせんやら空箱あきばこやらを此の部屋に持ち込んで、こんな舞台を作ったのです。なあに、これくらいの舞台で充分に間に合いますよ。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
下宿の老婆をおだててうちじゅうから買物の空箱あきばこやら、クリイニングから洋服を入れてくるボウル紙の箱や何かをありったけ徴収し、それへ手当り次第に放り込んだのを糸で縛ってタキシへ投げ入れ
その横には、水夫のラルサンがよいつぶれて、テーブルがわりの空箱あきばこに顔をおしつけたまま、なにやら文句の分らない歌を、豚のような声でうたっている。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)