矮小わいしょう)” の例文
いやしい汚い矮小わいしょうな人種が、己の同胞であるかと思うと、そうして自分もあんな姿をして居るのかと考えると、己は全くなさけなくなる。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この矮小わいしょう若僧じゃくそうは、まだ出家をしない前、ただの俗人としてここへ修業に来た時、七日の間結跏けっかしたぎり少しも動かなかったのである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分の運命に対する強い信頼が小供の時から絶えずはたらいていたけれども、またその側には常に自分の矮小わいしょうと無力とを恥じる念があって
自己の肯定と否定と (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
日本国江戸府の書生、爪中万二くわのうちまんじ市木公太いちきこうた、書を貴大臣、各将官の執事に呈す。生ら、賦稟ふひん薄弱、躯幹くかん矮小わいしょうもとより士籍に列するを恥ず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
南京街ナンキンまちのせまい路地にまでみなぎっている太陽の光を見ると、トム公の矮小わいしょうなからだに、争闘的な血が、むくむくと温度をもった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これいはゆる矮小わいしょうなる島国人とうこくじんの性質また如何いかんともすべからざるもの。進んで他を取らんとすればために自己伝来の宝を失ふ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
……だが、この街が最後のたてになるなぞ、なんという狂気以上の妄想もうそうだろう。仮りにこれを叙事詩にするとしたら、最も矮小わいしょうで陰惨かぎりないものになるに相違ない。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
巨漢レヴェズの套靴オヴァ・シューズを履いたのが、かえって、その半分もあるまいと思われる、矮小わいしょうな人物なんだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
(味はバークシャーよりも在来種がずっとよく、改良されてかえって味がまずくなっているが。)沖縄でその他の動物の比較的矮小わいしょうな理由原因もまたここにあると思う。
河畔のあしの中でしきりに葭切よしきりが鳴いている。草原には矮小わいしょう夾竹桃きょうちくとうがただ一輪真赤に咲いている。
ゴルフ随行記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それが貴方とふとしたことからトア・ズン・ドルで背中合せになってから、私は貴方が矮小わいしょうでこざかしい日本人であることを知りながら貴方が慕わしくてならないのです。
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
五十年以来彼らの身長なお減じたるは著しきことにして、パリー郭外の者らは革命前よりもいっそう矮小わいしょうとなれり。更に危険なることなし。要するに、そは愛すべき細民なり。
径の傍らには種々の実生みしょう蘚苔せんたい羊歯しだの類がはえていた。この径ではそういった矮小わいしょうな自然がなんとなく親しく——彼らが陰湿な会話をはじめるお伽噺とぎばなしのなかでのように、眺められた。
筧の話 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
矮小わいしょうな灌木や熊笹の繁茂している所がままあるが、展望を妨げるようなことは少しもない、間もなく偃月形をなしているかなりの大残雪を蹈んで、七時五分に絶巓の三角点址に達した
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
いかなる苦しみにもえ忍びつつ、自己の精神を向上せしめる偉大な人々においてはもちろんあり得ないことであるが、矮小わいしょうな私たちの魂にあっては、多くの事実が示しておるように
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
二人のクラフト、祖父と父とは、彼にたいして嘲弄ちょうろう的な軽蔑けいべつをいだいていた。その矮小わいしょうな男が彼らにはおかしく思われた、そして行商人といういやしい身分に自尊心を傷つけられていた。
まるで庭中が馬になったような感じがした。風景のプロポーションが、急に狂ったせいだろうとも思う。道端で轅につながれているときは、いつも不活溌で矮小わいしょうな汲取屋の馬なのである。
庭の眺め (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
私は、矮小わいしょう無力の市民である。まずしい慰問袋を作り、妻にそれを持たせて郵便局に行かせる。戦線から、ていねいな受取通知が来る。私はそれを読み、顔から火の発する思いである。恥ずかしさ。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
あの門が取り去られて、その代り何が建てられるであろう。吾々は偉大なものを無益な労力によって破壊し、矮小わいしょうな門をそれに代えしめる日を待ちつつあるのである。人は狂っているのであろうか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
子どもでもなし、大人とも思えない、矮小わいしょうで脚の短い男だった。頭の毛を、河童かっぱのように、さんばらに風に吹かせて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なるほどあの猿ならよく似合うね。いくら英吉利人イギリスじんが大きいたって、どうも君じゃ辻褄つじつまが合わな過ぎると思ったよ。——あの猿と来たらまたずいぶん矮小わいしょうだからな」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その二すじの足跡を詳細に云うと、法水が最初辿たどりはじめた左手のものは、全長が二十センチほどの男の靴跡で、はなはだしく体躯たいく矮小わいしょうな人物らしく思われるが、全体が平滑で
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そしてお前たちは、そういう威容をばかり保ってついにどうなるか知ってるのか。ただ矮小わいしょうになるばかりだ。よく覚えておくがいい、快活は単に愉快であるばかりでなく、また偉大である。
此処の親爺は「新青年」の探偵小説の挿絵さしえなどにある、矮小わいしょう体躯たいくに巨大な木槌頭さいづちあたまをした畸形児きけいじ、———あれに感じが似ていると云うことで、貞之助達は前に彼女から屡〻しばしばその描写を聞かされ
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ちょっと見ると維新以前の宿場のような感じのする矮小わいしょうな低い家並みの店先には、いわゆる「居留地」向きの雑貨のほかに、一九三三年の東京の銀座にあると同じような新しいものもあるのである。
軽井沢 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私は、私の作品を、ほめてくれた人の前では極度に矮小わいしょうになる。その人を、だましているような気がするのだ。反対に、私の作品に、悪罵あくばを投げる人を、例外なく軽蔑する。何を言ってやがると思う。
自作を語る (新字新仮名) / 太宰治(著)
矮小わいしょうで骨太だったと報じられていたが、頭蓋骨からみて、智能が劣っていたとはなかったように覚えている。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
双眸そうぼうの奥から射るごとき光を吾輩の矮小わいしょうなるひたいの上にあつめて、御めえは一体何だと云った。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
したがって、靴の踵に加えた力が直接爪先の上には落ちずに、幾分そこから下った辺りに加わるだろうからね。いかにも、足の矮小わいしょうなものが、大きな靴を履いたような形が現われるのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ついこの間まで玩具おもちゃのような矮小わいしょうな家に住んでいた亡命露西亜ロシア人の娘が、たちまち英国に渡って大会社の社長殿の夫人に出世し、お城のような邸宅で人もうらやむ栄華な暮しをするようになったかと思えば
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
矮小わいしょうを思い知らされて、いやになったのだ。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と、自分に訊ねてみると、悲しいかな、肉体は、先天的に矮小わいしょうだし、健康も人並よりすぐれていないし、学問はないし、智慧は当り前だし……一体、何がある?
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
矮小わいしょうで骨ばッた老人なのに、ひどく力のある足ぶみで、あらあらと玄関に顔を出した。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)