目金めがね)” の例文
金縁の目金めがねを掛けたる五ツ紋の年少わか紳士、襟を正しゅうして第三区の店頭みせさきに立ちて、肱座ひじつきに眼を着くれば、照子すかさず嬌態しなをして
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこもまたふだんよりも小綺麗こぎれいだった。唯目金めがねをかけた小娘が一人何か店員と話していたのは僕には気がかりにならないこともなかった。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
某局長の目金めがねで任用せられたとか云うので、木村より跡から出て、しばらくの間に一給俸までぎ附けたのである。
食堂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ほら、よく見ると黒い目金めがねをかけているでしょう、だから初め目が見えないと思っていなかったので、突然、ハモニカを吹き出したのでわたし吃驚びっくりしてしまったんです。
童話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
東方のドナウもついに国土こくどのなかに没した。僕は目金めがねを拭いてなお東方のドナウを見た。ドナウは、此処で Illerイルレル を合している。この川は南バイエルンのアルゴイ山中から発するものである。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
いきなりあさがみしものねずみでは、いくら盲人まうじんでも付合つきあふまい。そこで、ころんでて、まづみゝづくの目金めがねをさしむけると、のつけから、ものにしない。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もちろんどの河童も目金めがねをかけたり、巻煙草まきたばこの箱を携えたり、金入かねいれを持ったりはしているでしょう。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
性欲の目金めがねを掛けて見れば、人間のあらゆる出来事の発動機は、一として性欲ならざるはなしである。Cherchez la femme はあらゆる人事世相に応用することが出来る。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
閑耕は、キラリ目金めがねを向けて、じろりと見ると、目を細うして、ひげさきをピンと立てた、あごが円い。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は前後左右をおほつた機械の中に腰をかがめ、小さい目金めがねのぞいてゐた。その又目金に映つてゐるのは明るい軍港の風景だつた。「あすこに『金剛』も見えるでせう。」
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
目金めがねの男は一言で排斥した。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
目金めがねをかけた小娘が一人何か店員と話してゐたのは僕には気がかりにならないこともなかつた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
うやうやしく帽を脱いだ、近頃は地方の方が夏帽になるのが早い。セルロイドの目金めがねを掛けている。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つのぶちの目金めがねで、じっと——別に見るものはなし、人通ひとどおりもほとんどないのですから、すぐ分った、鉢前のおおきく茂った南天燭なんてんの花を——(実はさぞ目覚めざましかろう)——悠然として見ていた。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
目金めがね屋の店の飾り窓。近眼鏡きんがんきょう遠眼鏡えんがんきょう双眼鏡そうがんきょう廓大鏡かくだいきょう顕微鏡けんびきょう塵除ちりよ目金めがねなどの並んだ中に西洋人の人形にんぎょうの首が一つ、目金をかけて頬笑ほほえんでいる。その窓の前にたたずんだ少年の後姿うしろすがた
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その面形めんがたのごとくしゃくんだつらの、眉毛の薄い、低い鼻に世の中を何とにらんだ、ちょっと度のかかった目金めがねを懸けている名代なだいの顔が、辻を曲って、三軒目の焼芋屋のあかりてらされた時、背後うしろから
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親仁おやじが大目金めがねを懸けて磨桶とぎおけを控え、剃刀の刃を合せている図、目金と玉と桶の水、切物きれものの刃を真蒼まっさおに塗って、あとは薄墨でぼかした彩色さいしき、これならば高尾の二代目三代目時分の禿かむろ使つかいに来ても
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)