独鈷とっこ)” の例文
旧字:獨鈷
そうすると大師は暫く考えて、手に持つ独鈷とっこというもので、こつこつと地面を掘り、忽ちそこからこの清水が湧くようになりました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
けれどもこの兜には前立まえだてがないのです。つかが残っているので、前立は何んであるかと詮索せんさくをして見ると、これは独鈷とっこであるということです。
お坊さんは、壇の上の独鈷とっこをとって押頂おしいただき、長い線香を一本たて、捻香ねんこうをねんじ、五種の抹香を長いのついた、真ちゅうの香炉こうろにくやらす。
尋常のあわせを着流しにしていて、独鈷とっこの帯か何かを締め、小刀を前にして、大の方を如上の如く提げているのですが、最も幸いなことには、全く
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
人形使 はッこれは——弘法様の独鈷とっこのように輝きます。勿体もったいない。(這出はいだして、画家の金口から吸いつける)
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「か」の字川の瀬の中に板囲いたがこいをした、「独鈷とっこの湯」と言う共同風呂がある、その温泉の石槽いしぶねの中にまる一晩沈んでいた揚句あげく心臓痲痺しんぞうまひを起して死んだのです。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
更にシェストフはこの「敵意ある屈従」を独鈷とっこにとって、さもチェーホフが唯物論の苛酷かこくな脅迫のうちに新型の「歯痛の快感」を見出していたかの如き印象を
鼠色の御召縮緬おめしちりめんに黄柄茶の糸を以て細く小さく碁盤格子を織いだしたる上着、……帯は古風な本国織ほんごくおりに紺博多はかた独鈷とっこなし媚茶の二本筋を織たるとを腹合せに縫ひたるを結び
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
髪は白元結もとゆいできりりと巻いた大髻おおたぶさで、白繻子しろじゅすの下着に褐色無地の定紋附羽二重じょうもんつきはぶたえ小袖、献上博多白地独鈷とっこの角帯に藍棒縞仙台平あいぼうじませんだいひらの裏附のはかま黒縮緬くろちりめんの紋附羽織に白紐しろひもを胸高に結び
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
『江海風帆草』に見ゆる筑前立花山伝教の独鈷とっこ松、チベットにもラッサの北十里、〈色拉寺中一降魔杵ごうましょを置く、番民呼んで多爾済ドルジす、大西天より飛来し、その寺堪布カンボこれを
その他、なお、舎利塔、位牌、如意、持蓮じれん柄香炉えこうろ常花とこはなれい五鈷ごこ、三鈷、独鈷とっこ金剛盤こんごうばん、輪棒、羯麿かつま馨架けいか雲板うんばん魚板ぎょばん木魚もくぎょなど、余は略します。
独鈷とっこの湯からは婆様ばあさま裸体はだかで飛出す——あははは、やれさてこれが反対あべこべなら、弘法様は嬉しかんべい。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
独鈷とっこの模様を写し出したものと覚えている、そこで、その縮冊で四冊今までの分が完結して発行され、引続きなかなかよく売れたものである、その四冊は第二十の「禹門三級の巻」で終っている
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
共同風呂のまん中には「独鈷とっこの湯」の名前を生じた、大きい石の独鈷があります。半之丞はこの独鈷の前にちゃんと着物をそでだたみにし、遺書はそば下駄げた鼻緒はなおくくりつけてあったと言うことです。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
修善寺の奥の院の山の独活うど、これは字も似たり、独鈷とっこうどととなえて形も似ている、仙家の美膳びぜん、秋はまた自然薯じねんじょ、いずれも今時の若がえり法などは大俗で及びも着かぬ。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人はもう持参の浴衣に着換きかえていて、おきまりの伊達巻だてまきで、湯殿へります、一人が市松で一人が独鈷とっこ……それもい、……姉の方の脱いだ明石あかしが、沖合の白波に向いた欄干てすり
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふたさげの——もうこの頃では、山の爺がむ煙草がバットで差支えないのだけれど、事実を報道する——根附ねつけの処を、独鈷とっこのように振りながら、煙管きせる手弄てなぶりつつ、ぶらりと降りたが
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、玉で刻んだ独鈷とっこか何ぞ、尊いものを持ったように見えました。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)