焔々えんえん)” の例文
山と積まれた薪が焔々えんえんとして燃え上ると、天主にささぐる祈の声、サンタ・マリの讃歌は熱風を裂いて天にも届けと響き渡ります。
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
表に立った総大将の天草四郎時貞ときさだと共に、焔々えんえんたる火中に飛び込んで、殉難したと聞いた時には、さすがに懺悔心ざんげしんを起こしたものである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かくて、夜明け方には、市中の火は、あらかた消しとめられたが、なお焔々えんえんと燃えてやまないのは、北京城の瑠璃るりの瓦、黄金の柱、官衙かんがの建物などだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その怪光は、木立の幹まで真青に染めて、時間にして四、五秒間は焔々えんえんと燃えあがっていたであろうか。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
災厄さいやくは、悟空ごくうの火にとって、油である。困難に出会うとき、彼の全身は(精神も肉体も)焔々えんえんと燃上がる。逆に、平穏無事のとき、彼はおかしいほど、しょげている。
ヨブは九章の如き深き懐疑の黒煙に閉じ込められたるが故に、遂に信仰の火これに移りて霊界の煌火こうか焔々えんえんとして昇り、大光明は彼に臨みまた彼を通して世に臨んだのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
あたかも我が国未曾有みぞうの家屋を新築するものにして、我輩もとより意見を同じうするのみならず、敢えて発起者中の一部分を以て自らる者なれども、満目まんもく焔々えんえんたる大火の消防にわしくして
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
不思議にも、森は一面の猛火に包まれて、焔々えんえんと燃えてゐました。それは、若者たちの投げ棄てた松明の火が、落積つた木の葉に燃え移つて、それが枝から枝に、段々と燃え広がつたのでありました。
馬鹿七 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
不図又文三の言葉じりから燃出して以前にも立優たちまさる火勢、黒烟くろけぶり焔々えんえんと顔にみなぎるところを見てはとても鎮火しそうも無かッたのも、文三がすみませぬの水を斟尽くみつくしてそそぎかけたので次第々々に下火になって
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
焔々えんえん、馬も人も、そのあえぎに燃えてゆく。大枝おおえの山間をめぐりまた降って、淙々そうそうと聞く渓流のすぐ向うに、松尾山の山腹が壁のように迫って見えたときである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勿論もちろん人死ひとじにが出来、家は雷雨らいうの中に焔々えんえんと燃えあがりました。これはスグスグ雷はいつもの調子で、針の上に落ちてみますと、針の下から地中へ行く道が作ってないのです。
科学が臍を曲げた話 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
黒煙の濛々もうもうとして立ち昇る所に一度火が移れば、焔々えんえん天をこがす猛火を見るに至る。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
つづいて焔々えんえんたる松火の火が百余り鶴翼かくよくに展開された。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
場所が小高い丘であるし、正面海の風をうけるので、国府こうの代官所と年景の住居すまいをくるめたそこの一廓は、焔々えんえんと、紅蓮ぐれんのほしいままな勢いにまかされていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
倒壊した建物は、遠慮なく往来の交通を邪魔していたし、また思いがけないところに火の手が忍びよっていて何時の間にか南側の家が焔々えんえんと燃えているのに気がつくなどという有様だった。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
(逆賊曹操、逃ぐるな)と、火中に敵を追いまわし追いまわして、槍も砕け、剣も火と化すばかり戦ううち、焔々えんえんたる炎のなかに、曹操の影が、ぱっと不動明王のように見えた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
百雷ひゃくらいの落ちるような大音響を聞いたのは、それからものの五分と経たぬ後だった。ふりかえってみると、さっきいた事務所はあとかたもなくなって、あとには焔々えんえんと火が燃えているばかりであった。
街の探偵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その先鋒隊の襲来であろう、城下の木戸から町屋へわたって焔々えんえんと焼き立てられていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
焔々えんえんたる日輪が雲を捲いて、空中から大江の波間に落ちたとみて眼がさめたのである。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みわたせば、いつのまにやら、徳川とくがわ三千の軍兵ぐんぴょうは、裾野すその半円を遠巻とおまきにして、焔々えんえんたる松明たいまつをつらね、本格の陣法くずさず、一そく鶴翼かくよくそなえをじりじりと、ここにつめているようす。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、そのなかから、焔々えんえんと燃えつつながれだしてきたのは、半町はんちょうもつづくまっ赤なほのおの行列。無数の松明たいまつ。その影にうごめく、野武士のぶし、馬、やり、十、旗、すべて血のようにまって見えた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かえって、全身に焔々えんえんの闘志を燃やし、きょの如き眼をらんと射向けて
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜に入ると、下邳のほうに、焔々えんえんたる猛火が空をこがし始めた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
焔々えんえんと燃え狂わざるなき狂風熱水と化してしまった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)