涙含なみだぐ)” の例文
怒鳴られたので僕は喫驚びっくりして泣きながら父の顔を見てると、父もしばらくは黙ってじっと僕の顔を見て居ましたが、急に涙含なみだぐんで
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
圭一郎は暫時考へた揚句、涙含なみだぐんでたじろぐ千登世を叱咜して、今は物憂く未練のない煎餅屋の二階を棄て去つたのである。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
の一こと/″\涙含なみだぐんだ。このやさしい少女せうぢよ境遇きやうぐうかはつてたのと、天候てんかうくもがちなのとで、一そう我々われ/\ひとこゝろやさしさがかんじられたのであらう。
水車の音が単調に聞えて、涙含なみだぐまるるような物悲しさが、快活に働いたり、笑ったりして見せているお島の心の底に、しみじみわきあがって来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その時の私達は、明るい晴れやかな心になって、福寿草とともに、涙含なみだぐましい気持ちで春の陽光に感謝しています。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「御覧なさいな、」と、人知れずお雪は涙含なみだぐんで、見る見る、男の顔の色は動いた。はッと思うと
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
母はむせぶやうに声をのんだ。心の弱い孝一は母の涙含なみだぐんだ眼を見ると、うろ/\とした。
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
それでも芝居のらくの日に、興行中に贈られた花の仕分けなどして、片づいてからになった部屋に、帰ろうともせず茫然ぼうぜんと、何かにもたれている姿などを見ると、ただなんとなく涙含なみだぐまれるときがある。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「何をいきなり涙含なみだぐみやがるんだ。順序を立てて話して見るがいゝ」
涙含なみだぐみつつ宮が焦心せきごころになれるを、母は打惑ひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
鬼の樣なる入道も稍〻涙含なみだぐみてぞ見えにける。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
涙含なみだぐんだような顔をして、それを脊負って行く順吉のいじらしい後姿を見送っているお島の目には、涙が入染にじんで来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そしてまた私達のセンチメンタリストは、廃墟はいきょに自然がつちか可憐かれんな野草に、涙含なみだぐましい思いを寄せることがある。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
僕には何のことか全然すっかりわからないから、驚いて父の顔を仰ぎましたが、不思議にも我知らず涙含なみだぐみました。それを見て父の顔色はにわかに変り、益々ますます声をひそめて
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
平次は涙含なみだぐむ徳三郎を見やつて、滿足さうにうなづきました。
お鉄は涙含なみだぐんでさえいるので有った。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
お静はちよ涙含なみだぐみし目をぬぐひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
婆さんはまた涙含なみだぐんで
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「この子に初めて拵える着物が七十五銭なんて、私可哀そうなような気がして……。」と、お銀は涙含なみだぐんでいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
雄吾は佐平爺の慰めるような言葉で、涙含なみだぐましい気持ちに支配されながら、それに反抗するように言った。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
氣の弱さうな重三は、もう涙含なみだぐんでさへ居りました。
自然ひとりでに以前の自分の山の生活が想出せて来て、涙含なみだぐましいような気持になるのであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夜になって、色せた一張の襤褸蚊帳ぼろがやが吊られた。市平にはそれが、なんとなくなつかしかった。涙含なみだぐましくさえ思われた。そして親子四人は、暫くぶりで一枚の布団ふとんにもぐりこんだのであった。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
叔母は少し涙含なみだぐんでさへ居ります。
涙含なみだぐましい気持ちでいっぱいになっているに相違ありません。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
お増は涙含なみだぐんだような目色をして、良人に呟いた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
淺五郎は涙含なみだぐんでさへ居りました。
こう言われて、静枝は涙含なみだぐんでいるようだった。
接吻を盗む女の話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
梅三爺の訴えは涙含なみだぐましかった。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)