水浅葱みずあさぎ)” の例文
旧字:水淺葱
それでも近間の山には雲の影もなく、空は水浅葱みずあさぎに澄んで、天狼星シリウスが水の落ちて来る左側の崖の上の雪田を掠めてかすかに光っている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
月なき暗い夜に、うすものはだが白く透く、島田髷しまだと、ひさし髪と、一人は水浅葱みずあさぎのうちわを、一人は銀地の扇子を、胸に袖につかって通る。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上着は紺色の闕腋けってきで、頭には折烏帽子おりえぼしかぶり、下には水浅葱みずあさぎ色の段袋を穿くという、これはすべて岡倉覚三先生の趣味から来たものであったが
美術学校時代 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
その返照へんしょうはいつまでも透明な黄のかすんだ青磁や水浅葱みずあさぎの西の空に、あかく紅く地平の積巻雲せきけんうんを燃え立たせた。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
鳴海絞なるみしぼり浴衣ゆかた背後うしろには、背中一ぱいある、派手な模様がある。尾藤の奥さんが閾際しきいぎわにいざり出る。水浅葱みずあさぎの手がらを掛けた丸髷のびんを両手でいじりながら、僕に声を掛ける。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
紺に、瑠璃るりに、紅絞べにしぼり、白に、水紅色ときいろ水浅葱みずあさぎつぼみの数は分らねども、朝顔形あさがおなり手水鉢ちょうずばちを、朦朧もうろうと映したのである。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あいあお群青ぐんじょうと、また水浅葱みずあさぎと白と銀と緑と、うず飛沫ひまつ水漚すいおうと、泡と、泡と、泡と。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
襦袢じゅばんの袖にしている水浅葱みずあさぎのめりんすが、一寸位袖口から覗いている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
帆の中より、水際立って、美しく水浅葱みずあさぎに朝露置いた大輪おおりんの花一輪、白砂の清き浜に、うてなや開くと、もすそさばいてと下り立った、洋装したる一人の婦人。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……水浅葱みずあさぎ手絡てがら円髷まるまげ艶々つやつやと結ったのが、こう、三島の宿を通りかかる私たちの上からのぞくように少し乗出したと思うと、——えへん!……居士がおおきせきをしました。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白く千鳥を飛ばしたの絹縮みの脊負上しょいあげ。しやんとまった水浅葱みずあさぎおなじ模様の帯留で。雪のような天鵞絨とうてんの緒を、初霜薄き爪先つまさきかろふまえた南部表なんぶおもてまさの通った船底下駄ふなぞこげた
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さみしい好みの水浅葱みずあさぎ縮緬ちりめんに、あしの葉をあしらって、淡黄うすきの肉色に影を見せ、蛍の首筋を、ちらちらとあかく染めた蹴出しの色が、雨をさそうか、葉裏を冷く、さっと通る処女風むすめかぜ
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水浅葱みずあさぎのが立樹に寄って、そこともなく仰いだ時、頂なる人の姿を見つけたらしい。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「はあ、」と言って、梅次は、団扇うちわを下に、胸をすっと手をいた。が、黒繻子くろじゅす引掛ひっかけ結びの帯のさがりをななめすべる、指の白さも、団扇の色の水浅葱みずあさぎも、酒気さけけの無い、寂しい茶の間に涼し過ぎた。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)