毛繻子けじゆす)” の例文
おつたはやゝ褐色ちやいろめた毛繻子けじゆす洋傘かうもりかたけたまゝ其處そこらにこぼれた蕎麥そば種子まぬやう注意ちういしつゝ勘次かんじ横手よこてどまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
見よ、演説壇上のこの人を——黒紋付の木綿羽織に、色せた毛繻子けじゆすの袴。大きな円い額には長く延びた半白の髪が蓬のやうに乱れて居る。年正に六十。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ぶらり/\とした身の中に、もだ/\する心を抱きながら、毛繻子けじゆす大洋傘おほかうもりに色の褪せた制服、丈夫一点張りのボックスの靴といふ扮装いでたちで、五里七里歩く日もあれば
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
此人このひとはじめは大藏省おほくらしやう月俸げつぽうゑん頂戴ちようだいして、はげちよろけの洋服ようふく毛繻子けじゆす洋傘かうもりさしかざし、大雨たいうをりにもくるまぜいはやられぬ身成みなりしを、一ねん發起ほつきして帽子ぼうしくつつて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
帯は黒い毛繻子けじゆすのくけ帯をかひくちに結んで居ました。紺木綿こんもめんの前掛をして居ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
蜿蜒ゑんえんとして衣桁いかうに懸る処、恰も異体いたいにして奇紋きもんある一条の長蛇の如く、繻珍しゆちん、西陣、糸綿、綾織繻珍あやおりしゆちん綾錦あやにしき純子どんす琥珀こはく蝦夷錦えぞにしき唐繻子たうじゆす和繻子わじゆす南京繻子なんきんじゆす織姫繻子おりひめじゆすあり毛繻子けじゆすあり。
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
子爵のあわてたる顔はこの時毛繻子けじゆすの覆の内よりついとあらはれたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ほんに御門ごもんまへとほことはありとも木綿着物もめんきもの毛繻子けじゆす洋傘かふもりさしたときにはす/\お二かいすだれながら、あゝせきなにをしてことかとおもひやるばかり行過ゆきすぎて仕舞しまひまする
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ほんに御門の前を通る事はありとも木綿着物に毛繻子けじゆす洋傘かふもりさした時には見す見すお二階のすだれを見ながら、ああお関は何をしてゐる事かと思ひやるばかり行過ゆきすぎてしまひまする
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)