檜笠ひのきがさ)” の例文
こんな風であるから、これも自分には覚えておらぬが横浜から雇った車夫の中に饅頭形の檜笠ひのきがさかぶったのがあったそうだ。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
茸は立衆たてしゅう、いずれも、見徳、嘯吹うそのふき上髭うわひげ、思い思いの面をかぶり、括袴くくりばかま脚絆きゃはん、腰帯、水衣みずぎぬに包まれ、揃って、笠を被る。塗笠、檜笠ひのきがさ、竹子笠、すげの笠。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
荷馬車や旅商人や、茣蓙ござを着、大きな檜笠ひのきがさを被つた半島𢌞りの学生の群にも幾組か出遇つたり追ひ越したりした。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
明荷葛籠あきにつづら蒲団ふとんの上なぞよりも、馬のしりの軽い方を選び、小付こづけ荷物と共に馬からおりて、檜笠ひのきがさひもを解いたところは、いかにもこの人の旅姿にふさわしい。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なすあへぎながらものいふが苦しげなれば此方こなたよりこゝはなどゝとはん時のほか話しかけるに及ばずと云へど左れど國自慢に苦しげながら又不問語とはずがたりするも可笑をかし野尻を過ぎ三戸野みとのにて檜笠ひのきがさ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
うりの根から粉がとれる、名物の檜笠ひのきがさ白箸しろはしとは土地の有力なる物産である、それから山で茸類たけるいがとれる——温泉とこれらの産物によって土地の人は活計を立てているのでありました。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
歩行あるきながら振返って、何か、ここらにおもしろい事もないか、と徒口むだぐち半分、檜笠ひのきがさの下からおとがいを出して尋ねるとね。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分の乗っていた車の車夫が檜笠ひのきがさを冠っていて、その影が地上に印しながら走って行くのを椎茸しいたけのようだと感じたと見えてその車夫を椎茸と命名したという話を書いた。
明治三十二年頃 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
動いて行く檜笠ひのきがさが坂になった馬籠の町の下の方に隠れるまで見送った。旧本陣の習慣として、青山の家のものがこんなに門の前に集まることもめったになかったのである。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
みちそらとのあひだたゞ一人ひとりわしばかり、およ正午しやうごおぼしい極熱ごくねつ太陽たいやういろしろいほどにかへつた光線くわうせんを、深々ふか/″\いたゞいた一重ひとへ檜笠ひのきがさしのいで、図面づめんた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
道と空との間にただ一人我ばかり、およそ正午しょうごと覚しい極熱ごくねつの太陽の色も白いほどにえ返った光線を、深々といただいた一重ひとえ檜笠ひのきがさしのいで、こう図面を見た。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、法師の脱いで立てかけた、檜笠ひのきがさを両手に据えて、荷物の上へ直すついでに、目で教えたる葭簀よしずの外。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ともするとまた常盤木ときはぎ落葉おちばする、なんともれずばら/″\とり、かさかさとおとがしてぱつと檜笠ひのきがさにかゝることもある、あるひ行過ゆきすぎた背後うしろへこぼれるのもある
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ともするとまた常磐木ときわぎが落葉する、何の樹とも知れずばらばらと鳴り、かさかさと音がしてぱっと檜笠ひのきがさにかかることもある、あるいは行過ぎた背後うしろへこぼれるのもある
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)