根城ねじろ)” の例文
ただ東南の間に、ほそき一径の坂路はんろを見るのみ。元弘の年、廷尉正成のおこす所にして、南河内十七城の根城ねじろとなす。〔河内志〕
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いま本所の化物屋敷に根城ねじろを置いているから、近く左膳を頭に彼らの一味が来襲するに相違ないといましめて、いまだに放れ駒のように
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
根城ねじろとしていた六天山塞を焼きはらって、かれらは解散したのであろうか。いやいや、そうは思われぬ。あの執念しゅうねんぶかい四馬剣尺のことだ。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
日本女学園のやんちゃな連中で、片瀬かたせ西方にしかたにある鮎子さんの別荘を根城ねじろにして、朝から夕方まで、海豚いるかの子のように元気いっぱいに暴れまくる。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
事毎ことごとに水に縁のある所を見ると、兇賊は舟を根城ねじろとして巧みに其筋そのすじの眼をくらましているのではないかと、その方面に厳重なる捜査が開始される模様である。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
為朝ためとも九州きゅうしゅうくだると、さっそく肥後ひごくに根城ねじろさだめ、阿蘇忠国あそのただくにという大名だいみょう家来けらいにして、自分勝手じぶんがって九州きゅうしゅう総追捕使そうついほしというやくになって、九州きゅうしゅう大名だいみょうのこらずしたがえようとしました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
毎日遊び歩いているのであるから、彼等もなるたけぜにの要らない場所を選ばなければならなかった。彼等は結局この湯屋の二階を根城ねじろとして、申し訳ばかりに時々そこらを出て歩いていた。
半七捕物帳:04 湯屋の二階 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「よかろう! ひと泡吹かしてやろうわ。奴等の根城ねじろは何という家じゃ」
続いてウィルヘルム・エルンスト公爵は、バッハの教会音楽改革計画を支持し、バッハはここに根城ねじろえて、古今未曾有みぞうの対位法形式の創造者としての彼の天分を伸ばすことが出来たのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
その頃『早稲田文学』を根城ねじろとして専ら新劇の鼓吹に腐心していた逍遥は頻りに二葉亭の再起を促がしつつあったが、折も折、時なるかな、二葉亭はこの一家の葛藤の善後処分を逍遥にはかった結果
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「こんなところを根城ねじろにしているのか」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「こいつを返しゃ、俺たちの根城ねじろが分る、すぐ御用提灯ぢょうちんの鈴なりで、逆襲さかよせのくるのは知れている。兄貴、早くってしまわねえととんだことになるぜ」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なにしろ、これがぼくのほんとうの根城ねじろだからね。ここのほかにも、いくつかのかくれががあるけれど、それらは、敵をあざむくほんの仮住まいにすぎないのさ。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いずれにしても、自分の寺内の墓地を根城ねじろにして、世間をさわがすような事を繰り返すのは甚だ迷惑であるので、祐道はお近らに対して幾たびか意見を加えたが、彼等は一向にかなかった。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
地方を根城ねじろとして住みしが、日本人
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「……なにしろ、先生。その梁山泊ッていうのは、群盗の根城ねじろなんです。いってみればまア天下にこわい者なしの無法者の巣ですからね、かなやあしません」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄の人魚の怪物団は、この、人の知らない洞窟をみつけて、そこを、根城ねじろにしていたのです。
海底の魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし、さてこれから八幡船ばはんせん根城ねじろをさがそうとなると、それはほとんど雲にかくれた時鳥ほととぎすをもとめるようなものだった。——むろん小文治こぶんじにも、いい智恵ちえは浮かばなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「えッ、ここがあの小太郎山で、伊那丸さまの立てこもる根城ねじろとなるのでございますか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分の根城ねじろだった兗州えんしゅうを失地し、その上、いなご飢饉ききんやくにも遭いなどして、ぜひなく汝南じょなん潁川えいせん方面まで遠征して地方の草賊を相手に、いわゆる横行おうこうをやって苦境をしのいでいたが
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)