材料たね)” の例文
「毎日」は何日いつでも私の方より材料たねが二つも三つも少かつた。取分け私自身の聞出して書く材料が、一つとして先方に載つて居ない。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
八五郎の持って来た材料たねはそれだけ。しかし思いの外役に立ちそうな種だったことは、平次の会心の笑みにも見えるのでした。
お園を威赫おどかす材料たねにと、鹿子を欺き、助三に、与へるものと偽つて、取出したるものぞとは、神ならぬ身の、お園は知らず。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
深山の口から、何か自分をいじめるよな材料たねでも揚げて来たかのように、帰るとすぐ殺気立った調子で呼びつけられたのが厭でならなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小指は恋をする者にとつて大事な材料たねだが、恋をする者の財布は大抵空つぽなので、それを売りつける訳にもかなかつた。
何しろ新材料はやみみと云うとこで、近所の年寄や仲間に話して聞かせると辰公は物識ものしりだとてられる。迚も重宝ちょうほうな物だが、生憎あいにく、今夜は余り材料たねが無い。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
もちろん、こんな話から何か材料たねを探り出そうと思ったわけでなく、ただの世間話として、たずねてみたのである。
或る探訪記者の話 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
仕様もあろうのに、その病人を材料たねにして、約束の生命いのちを「とりあげ」に来たが、一目弟を見たがるから猶予をした、胸に爪を立てて苦しませたとはどうだ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこで私は夫れを材料たねとして、是迄幾個いくつかの物語を諸種の雑誌へ発表したが、今回は赤格子九郎右衛門に就き、「緑林黒白」に憑拠して考察を加えて見ようかと思う。
赤格子九郎右衛門 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
つまり世界第一等の色気の深い香水の材料たねになります訳で、今の林君の話のスカン何とかチュウ処の鯨よりも日本の鯨の新婚旅行の涎の方が何層倍、濃厚みごいそうで……
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それから大きな百姓らしい手で薪を縛る繩などをゴシ/\とひながら、種々なお伽話や、むじなの化けて來た話や、畠の野菜を材料たねにした謎などを造つて、私に聞かせるのを樂みにしたのも
先代に嗣子よつぎがなかったところから、子飼いの職人から直されて暖簾のれんと娘おりんを一度に貰って家業を継いだのだったが材料たねの吟味に鑑識めききが足りない故か、それとも釜の仕込みか叩きの工合いか
これを材料たねにしてさかんやみから暗へ辛辣な手を延ばして、大金を強請ゆすり取り、ついには閣員を脅迫して代議士になりすまし、当路の大官、醜代議士連の弱点を押えては私利私欲をほしいままにしているが
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
折角親しい人々と積る話をしてゐるところへ、見も知らぬ他人の、殊に新聞記者が割込んで、材料たね取りの目的で、歐洲の近状如何などといふ取とめも無い大きな質問をされては堪らないと思つた。
その大睾丸を蜂に食はれて、家に帰るまで泣き続けて居たといふ事と、今一つ、よく大睾丸を材料たねにして、いろ/\渾名あざなを付けたり、悪口を言つたりるものだから、しまひにはそれを言ひ始めると
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そして又、小松君は、聯隊区司令部には三日置位にしか材料たねが無いのに、菊池君が毎日アノ山の上まで行くと云つて、笑つて居た。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
八五郎の持つて來た材料たねはそれだけ。しかし思ひの外役に立ちさうな種だつたことは、平次の會心の笑みにも見えるのでした。
英語で一番綴りの長いことばは何だらうといふ事は、往時むかしからよく無駄話の材料たねにされたもので、ある人は。
小説の材料たねにするから……ふうん。折角せっかくだが面白い話なんかないよ。ヒネクレた事件のアトをコツコツと探りまわるんだからろくな事はないんだ。何でも職務しごととなるとねえ。
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
(じゃむこう)がまた材料たねのある時は、嬉しそうに尾をっていきおいよくけるんですもの。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
連判状を材料たねに金を強請ゆすろうと計っていたのでした
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
或る酒屋の隠居が下女を孕ませた事を、雅俗折衷で面白可笑しく三日も連載物つづきものにしたり、粋界の材料たねを毎日絶やさぬ様にした。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
平次は眼顔で誘って、倉の蔭の方に歩き出しながら、ガラッ八の集めた材料たねを訊きました。
けれどもその嘘言うそは皆、真実を材料たねにしたもので、ただ私がこの女の叔父であるという事と、馬に毒をめさせたのを少年の所為せいにしている事と、この二つのために全部が嘘に聞えているので
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
先日こなひだ新規に帝室技芸員が幾人いくたりか任命せられた。技芸員はみんなその道に巧者な人達で、各自てんでに何か製作を拵へてゐるらしいが、そんなきまつた仕事のほかに、時々笑ひ話の材料たねを蒔く事をも忘れない。
己に毒薬をらせたし、ばれかかったお道さんの一件を、穏便にさせるために、大奥方の計らいで、院長に押附おッつけたんだ。己と合棒の万太と云う、幼馴染の掏摸の夥間なかまが、ちゃんと材料たねを上げていら。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『そらア良くない。大事にし給へな。何なら君、今日の材料たねは話して貰つて僕が書いても可いです。』
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ほかの材料たねに乗り換えようかと、一瞬間思い迷った。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
歩いて、材料たねがあるかあるかと、それ許り心懸けて居ります。そして、昨夜も遅くまで
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『ナーニ、恰度アノ隣の理髪店とこやの嬶が、小宮の嬶と仲が悪いので、其麽事を云ひ触らしたに過ぎなかつたですよ。』と云つて、軽く「ハッハハ。」と笑つたが、其実渠は其噂を材料たね
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『お前の知つた人の事で、材料たねが上つたツて小松君が話した所さ。』
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)