木下闇このしたやみ)” の例文
健一と燿子は、木下闇このしたやみから、真夏の陽に照らされて、乾ききった肌を見せている河床を見ながら、ひそひそと話していました。
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
嘉吉が気が違いました一件の時から、いい年をしたものまで、黒門を向うの奥へ、木下闇このしたやみのぞきますと、足がすくんで、一寸も前へ出はいたしませぬ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馬子は提灯をさしつけて、お松の隠れている木下闇このしたやみを照しました。お松の足は、ひとりでにその木下闇から離れて、馬子の提灯の方に引き寄せられました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すすきの芽が延びて来た。春が倐忽しゅっこつと逝ったのである。五月雨さみだれ木下闇このしたやみ、蚊のうなり、こうして夏が来たのである。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
手入れをしない古庭は植物の朽ちたにおいがちていた。数知れぬ羽虫はいたるところに影のように飛んでいた。森閑として木下闇このしたやみに枯葉を踏む自分の足音が幾度か耳を脅かした。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
暗やみ坂とでもいそうな、木下闇このしたやみを登りきると、山の上には、まだ西陽があたっていた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は勇気をふるって、鳶色の木下闇このしたやみで彼女を抱き寄せた。
可哀相な姉 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
黒葉水松くろばいちゐ木下闇このしたやみ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
こめたりける此所は名におふ周智郡すちごほり大日山のつゞき秋葉山の絶頂ぜつちやうなれば大樹だいじゆ高木かうぼく生茂おひしげり晝さへくら木下闇このしたやみ夜は猶さらに月くら森々しん/\として更行ふけゆく樣に如何にも天魔てんま邪神じやしん棲巣すみかとも云べきみねには猿猴ましらの木傳ふ聲谷には流水滔々たう/\して木魂こだまひゞき遠寺ゑんじかねいとすごく遙に聞ば野路のぢおほかみほえて青嵐颯々さつ/\こずゑ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
バラバラとつぶてのように飛び出した山役人、木下闇このしたやみを分けて山路に差しかかった旅人清作の行手ゆくてに立ち塞がりました。
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
人家途絶えて木立ばかり、その木下闇このしたやみへかかった時、声も掛けずに背後うしろから、サッと切り込んだ者がある。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
禅定寺峠ぜんじょうじとうげ——、あの頂から少しくだって、森々しんしんたる日蔭へ入ると、右は沢へなだれて、密生したならの傾斜で、上にも、とちや松がい茂っており、旅馴れた者にも気味悪い暗緑な木下闇このしたやみ——。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒葉くろば水松いちゐ木下闇このしたやみ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
町外れの木下闇このしたやみへ誘い入れると、顔を染める青葉の蔭にお染は可愛らしく手を合せるのです。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
二人はなるたけ木下闇このしたやみの人目にたたない闇の場所を、りに選って歩いて行く。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
片がわの茂みですが夏は木下闇このしたやみのうす暗く、昼もふくろの啼くさびしさです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)