持来もちきた)” の例文
旧字:持來
宮は奥より手ラムプを持ちて入来いりきにけるが、机の上なる書燈をともをはれる時、をんなは台十能に火を盛りたるを持来もちきたれり。宮はこれを火鉢ひばちに移して
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
寛政の初年に阿波あわからセンバという機械を直江津なおえつ持来もちきたる。一日に千把の稲を扱く故にこの名があった。本名を何というか知らぬと謂っている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
鉄道は自然界にまで革命を持来もちきたした。その一例を言えば、この辺で鉄道草と呼んでいる雑草の種子は鉄道の開設と共に進入しきたったものであるという。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たいまつもなかるべし、かんじきも入るやうになりしぞ、それも持来もちきたれりといふも、西おとしの雪荒ゆきあれにてよくもきこえず。
このもの医師の命ぜし如く早速蒟蒻あたためて持来もちきたりしかばそれをば下腹におし当てて再びうとうとと眠りき。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ソッと抜足ぬきあしをして自分の居間へ戻り、六連発銃を持来もちきたり、襖の間からう狙いを附けたから勝五郎はびっくりして
種々の科学的知識を解剖台上に持来もちきたつて、明らかに物そのものを解剖して見せたのである。(芸文——十月号)
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
実は御願おんねがい只今ただいま上りましたので御座ございますと、涙片手の哀訴に、私はただちにって、剃刀かみそり持来もちきたって、立処たちどころに、その娘の水のるような緑の黒髪を、根元から、ブツリ切ると
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
彼は隣人の世にも珍しい片意地と、その数奇な生活に興味と同情を持っていたが、同時に広い世の中の人と、悲喜哀楽を共にする事が、しあわせを持来もちきたすのではないかと考えていた。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
妻女は愈々いよいよ哀れに思い死骸を引取ひきとり、厚く埋葬をてやったが、丁度ちょうど三七日の逮夜たいやに何かこしらえて、近所へ配ろうとその用意をしているところへ、東洋鮨とうようずしから鮨の折詰おりづめを沢山持来もちきたりしに不審晴れず
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
六月二十七日、土人イカイラン熊の子二頭を馬のせなに載せて持来もちきたれり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
と云われてお國は成程そうだと急ぎ奥へ駈戻り、手早く身支度をなし、用意の金子や結構な品々を持来もちきた
やがて静緒の持来もちきたりし水にくちそそぎ、懐中薬かいちゆうくすりなど服して後、心地をさまりぬとて又窓にりて外方とのがたを眺めたりしが
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
曾根が一人で訪ねて来たということは、ある目に見えない混雑を三吉の家の内へ持来もちきたした。曾根は、戸の間隙すきまからでも入って来て、何時の間にか三吉の前に坐っている人のようであった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
室のすみに婆が茶の支度せんとするを、満枝は自ら行きて手を下し、あるひは指図もし、又自ら持来もちきたりて薦むるなど尋常の見舞客にはあらじと、鴫沢は始めてこの女に注目せるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
孝助は玄関に参り、欄間らんまかゝってある槍をはずし、手に取ってさやはずしてあらためるに、真赤まっかびて居りましたゆえ、庭へり、砥石といし持来もちきたり、槍の身をゴシ/\ぎはじめていると