抜目ぬけめ)” の例文
旧字:拔目
ロセツの申出はついにおこなわれざりしかども、彼が日本人に信ぜられたるその信用しんようを利用して利をはかるに抜目ぬけめなかりしはおよそこのたぐいなり。
それが慣習となって、その効果が一面抜目ぬけめがなく如才のない性格を彼に附与した。それがために時としては狡猾こうかつとさえ思われた。
イヨー、中々よく抜目ぬけめはないな。貴様にやつたつてやくにはたたないが、どうも仕方がない、誕生日のお祝ひにやるとしやうよ。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
と、そこは、ただでは動かない抜目ぬけめのない長庵が、変に口をモゴモゴさせて何かお礼のことをほのめかしそうだから、山城守は先手を打つ気で
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「御褒美? ハハハ、あなたは仲々抜目ぬけめがありませんね。あります、すばらしいご褒美が。実にすばらしいご褒美が」
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かくて不折君は余に向ひてつまびらかにこの画の結構けっこう布置ふちを説きこれだけの画に統一ありて少しも抜目ぬけめなき処さすがに日本一の腕前なりとて説明詳細なりき。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
生活のために働らく事は抜目ぬけめのない男だらうが、自分の技芸たる料理其物のためにはたらく点から云へば、頗る不誠実ぢやないか、堕落料理人ぢやないか
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と、両人の争って居るのを聞いていた源次郎は、人の妾でもろうという位な奴だからなか/\抜目ぬけめはありません。
「別に忘れ物はなかったな。マッチを貰って行こう。」と駒田は靴をはきながらも、さすがに抜目ぬけめがない。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
抜目ぬけめのない、頼りになりそうな(その上、たしかにちょっといたずららしいところはあるにはあったが)
抜目ぬけめなくモーツァルトを働かせた父親に対して、モーツァルトは誠に「よき子」であったが、ザルツブルクを去った時と、二十七歳で結婚した時だけは、父親母親
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
女が、矢走やばせの渡船場で、道を訊ねたのを知った八弥は、一船あとから上陸あがるとすぐに、同じ渡船小屋へ行って、今行った女が何を訊いて行ったのかを抜目ぬけめなくただしてみた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またチベット人は銭儲けには抜目ぬけめはないがそういう事にはごく不注意で、あそこに城の門みたようなものがあるという位の話で、兵士が何人居ってどういう仕事をするのか
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「あの黄金の塊を艇の中に置いて、また引返して来て拾うつもりなんですよ。……いやそう慾ばっても、そんなに積ませやしませんよ。だがあの男は抜目ぬけめなしですネ。はッはッはッ」
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
実は過日こねえだうちを出てから、もうとても今じゃあ真当ほんとの事アやってるがねえからてめえに算段させたんで、合百ごうひゃくも遣りゃあ天骰子てんさいもやる、花も引きゃあ樗蒲一ちょぼいちもやる、抜目ぬけめなくチーハも買う富籤とみも買う。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「酔っぱらったって商売に抜目ぬけめはねえ、早く十八文おいて帰れ」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
喜兵衛は狂歌の才をも商売に利用するに抜目ぬけめがなかった。
「今ぐるぐるまわって、休もうと思ったが、どこもいていない。駄目だめだ、ただで掛けられる所はみんな人が先へかけている。なかなか抜目ぬけめはないもんだな」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お早いことねえ。まだ散らかしたまんまなのよ。」と梯子段はしごだんを降りて行くと、清岡は丁度靴をぬいで上ったばかり。戸口を掃いていた小母おばさんも抜目ぬけめのない狸婆たぬきばばあと見えて
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
とにかくそういう抜目ぬけめのない男の事ですから学士になって或地方の女学校の教師になると間もなくその土地の素封家そほうか壻養子むこようしになって今日では私立の幼稚園と小学校を経営して大分評判がよい。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
抜目ぬけめのない岡田はかねてから注意して土地で一流の宿屋へへやの注文をしたのだが、あいにく避暑の客が込み合って、ながめの好い座敷がふさがっているとかで、自分達はただちくるまを命じて浜手の角を曲った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)